第171話 生成AI

「柊、説明して!」

新田は有無を言わせぬ圧力で翔太に詰め寄った。


マンスリーマンションの一室で、翔太は未来で使われている生成AIを使ったチャットボットを共有した。

生成AIはこの時代において、明らかなオーバーテクノロジーであり、翔動のメンバーは驚きを隠せなかった。 ※1

翔太、石動、新田の役員だけが残った部屋で、新田は柊を問い詰めていた。


「新田が言いたいのは、柊が出してきた技術があり得ないってことだよな?」

「ええ、そうよ! 現代の技術では絶対に実現できないわ」


石動も翔太が作成した生成AIは未来の技術であると確信していたようだ。


「ちなみに、新田が実現できないと思った根拠を教えてくれないか?」


新田は「そうね」と前置きしながら、話し始めた。


「今の技術で自然言語を処理する場合、いくつかのタスクに分類できるわ」

「詳しく」

「まずはテキスト分類ね、文章を特定のカテゴリーに分けること」

「メールがスパムかどうかを切りかけたりするってことか」

「それで合っているわ」


「次にキーワード抽出、文章からキーワードやフレーズを取り出すこと」

「主に検索エンジンで使われる技術だな」

「そうよ」


「あとは機械翻訳や文法解析ね」

「誤字や表記ゆれのチェックもそれに含まれるのか?」

「そうね、入れていいと思うわ」


新田は「ふぅ」と一息入れながら続けた。


「今の技術でできるタスクはそれくらいよ。

柊が用意したチャットの仕組みを作る場合、質問に応じて予め用意した回答を選んで返すことしかできないわ。

特にバースデーソングが著作権に該当するかどうかなんて、明らかに想定外の質問よ!」

「柊もその認識で合っているか?」


石動の問いに対して、翔太がこれを肯定すれば、未来の技術であることを認めることであり、否定すれば何らかの辻褄が合う説明が必要になる。


「あぁ、合っているぞ」

「あっさり認めやがった」


石動はこの先翔太が打ち明ける内容を察しているようだ。


「この仕組みは生成AIと呼ばれる」

「文章を作るAIってことか?」

「もう少し広い文脈だ、画像や音声、動画などを作るのも生成AIだ」

「そんなことまでできるのか!」


新田の眉がピクッと反応した。


「とりあえず、自然言語の話に戻そう。今日、俺が見せたのはLLMという仕組みだ」

「なにそれ?」

「『Large Language Model』の略で、日本語では大規模言語モデルと呼ばれる。

自然言語処理(NLP)技術を使って大量のテキストデータを学習し、人間の言語を理解し生成する能力を持つAIモデルだ」


「もう少し詳しく!」

新田の食いつきは、かつてないほどであった。


「ディープラーニングについてはすでに共有していると思うが、これを使って膨大な量のテキストデータからパターンを学習する。

単語やフレーズの出現頻度を学習し、次に来る単語を予測することで文の構造や意味を理解し、自然な文章を生成するんだ」

「ちょっと待って! その予測はかんたんにできないわよ!」

「アテンションメカニズムという仕組みを使っている。入力データの重要な部分に動的な重み付けをつける」

「コサイン類似度とは違うの?」

「コサイン類似度はベクトル間の類似性を測定しているが、アテンションメカニズムではニューラルネットワークで特定の入力に対してどの部分に『注意』を集中させるべきかを学習させているんだ」

「でもそうなると、計算量が――」

「ス、ストップ……タオルタオル」


話が専門的になりすぎたのか、石動は待ったをかけた。


「とりあえず、これだけは聞かせて、『アテンションメカニズム』っていうのは私はまったく知らないわ」

「あぁ、の論文で発表された」


⚠─────

※1 「俺と俺で現世の覇権をとりにいく」 97話

https://kakuyomu.jp/works/16818093081647355813/episodes/16818093090764453782

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