第164話 報酬
「いやー……天国だわ」
野田はハラペーニョピクルスを食べながら、ご機嫌だった。
メキシカン居酒屋では田村の招集により、アクシススタッフの元同僚が集まっていた。
「サイバーフュージョンはそんなにいい待遇なの?」
上田はメスカルを飲んでいた。
(酒なら何でもいいのか……?)
「給料もそうだが、最新のマシンを使えるからな。
エンジニアが何が重要なのかをちゃんとわかっているよ」
「ぐぬぬ……」
田村はサルサをチップスに乗せながら、悔しがっていた。
野田は幸いにも(?)、配属先はパーソナルメディア事業部ではなかった。
佃や大熊と同じ部署では神代とのつながりが露見するため、翔太は胸をなでおろしていた。
「営業の待遇も悪くなさそうね」
「なになに? 香子も行きたい感じ?」
翔太は上田が抜けた場合の状況を想像してみた。
(結構厳しいな……)
上田の業務範囲は、子会社のエンプロビジョンの営業のほか、自社のマーケティングなど多岐にわたっている。
仮に、代わりの優秀な営業を見つけたとしても、一時的な戦力ダウンは避けられないだろう。
翔太は内心の不安を表に出さないよう、十分に気をつけた。
「CFも稼げそうだけど、
上田はケサディーヤを頬張りながらあっさりと言い放った。
「そなの? CFのほうが事業規模が桁違いじゃない?」
上田の意外な反応に、田村はエリマキトカゲを初めて見つけたような表情をした。
「裁量でできる範囲が大きいのよ、柊の会社なら私の思うがままだわ。
私が本気を出せば際限なく稼げるじゃない」
「俺の会社じゃないし、そこまで権限委譲した覚えはねぇよ」
翔太は「チップスばっかだな」と言いながらナチョスを食べていた。
上田の発言は多少誇張があるものの、ある程度好きにやらせておくことで、当面の間は辞めることはなさそうだ。
「清々しいほど、金が優先だな」
野田はコロナビールを飲みながら言った。
「いいじゃない、わかりやすくて」
「たしかに、そのほうがありがたいな」
「本気で言っているのか?」
野田は驚いて翔太を見た。
「
「安定性とかブランドイメージがないからか?」
「そんなところだ」
翔太と石動は人材の質には絶対に妥協しないことを予め決めていた。
そのためには報酬を惜しまないことが重要であった。
「ということは、柊くんは香子のことを優秀だと思っているんだ?」
「まぁな」
「柊は意外と人を見る目があるのよ」
「遠回し……でもないか、上田は自分を褒めすぎだろ」
野田は呆れながら言った。
翔太は「人生経験が長いからな」とは言えなかった。
「私だけじゃないのよ。柊が連れてきた社員はみんな優秀なんだから」
「まぁ、香子が言うなら、説得力があるね」
上田はアクシススタッフの営業をしていたとき、多くの人材の情報を見てきた。
翔動の社員はそれらを上回ると、上田は判断しているようだ。
「みんないいなぁ……アクシススタッフは大変なことになっているんだよ」
「「「どしたん?」」」
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