第163話 珍しい名前
「もう少し目線を上でお願いします」
夢幻の撮影所で今宮が神代と美園の写真を撮っていた。
映画『ユニコーン』では広報活動の一環として、出演者のイラスト化が行われていた。
今宮は写真をもとにイラストに描き起こすようだ。
翔太の紹介により、イラストレーターに今宮が採用された。
ユニケーションはユニコーンとのコラボレーション企画が予定されているため、映画の広報で使われるイラストと統一感を出す翔太側の狙いがあった。
翔太のこれまでの実績が評価されたためか、イラストレーターの選定は恙なく決定された。
「とりあえず、リカさんと皇のことはバレていないようです」
翔太は橘に、過去に皇の姿で今宮と会ったことを共有していた。
「ええ、そのようですね」
今宮が神代に対面したときの違和感は感じなかった。
当時の神代の変装は完璧で、今宮がそれに気づいた様子はないというのが翔太の結論で、橘の見解も同様であった。
神代には事前情報を与えていたため、今宮とは初対面であるように完璧に振る舞っていた。
(さすが梨花さんだ……問題は俺のほうなんだよな)
神代は演技のプロであるが、翔太はド素人だ。
今でも今宮に皇のことがバレてしまうかヒヤヒヤしていた。
「野田がサイバーバトルのことを詳しく調べだしたら、皇にたどり着く可能性はあります。
珍しい名前なので、偶然の一致と言うには少し無理があるかもしれません」
(別に、佐藤とか鈴木でよかったんだよな……)
翔太はもっとありふれた名前を名乗らなかったことに後悔した。
「仮に皇さんの正体が判明したところで、大きな問題にはならないと思いますよ?」
「たしかにそうですね……」
橘が懸念しているのは、神代のスキャンダルだ。
リカと神代が結びつなかければ問題はないということになる。
(野田はどう思うだろうか……?)
翔太は脳内シミュレーションを開始した。
野田からの視点で、翔太が謎のイケメンに変装し、ボクっ子と付き合っていたことになる。
アストラルテレコムで遭遇したときは、翔太とリカは友人という関係であった。
しかし、野田から見たら、皇とリカは恋人という関係にある。
翔太はリカのことを友人といいつつ、影では変装をして恋仲だったことになる。
(あからさまに怪しいな!)
神代が正体を隠す理由はいくらでもあるが、翔太にはその理由が見当たらない。
「――という結論に達したのですが」
翔太は橘に考えたことを打ち明け、相談した。
「ふむ、そうですね……リカをやんごとなき身分ということにしましょうか? それなりに真実性がありますし」
「つまり、リカさんを守るために俺も変装をしたということですね」
もし、リカが白川のような立場であると仮定すると、身分を隠す必要が十分にあるだろう。
翔太は何らかのきっかけでリカと知り合い、恋仲になったが表沙汰にはしたくないため、翔太が気を利かせて変装したという建付けが考えられる。
もしくは、リカが男女交際に憧れを持っていて、友人の翔太がその希望を叶えるべく仮初の恋人を演じたという設定もあり得る。
(あのときは梨花さんが皇のことを好きだと演技していたからな……)
「後者のほうが、後で話がこじれないでしょうね」
橘はなぜか呆れるような口調で言った。
神代や橘に口裏合わせを頼めば、協力してくれるだろうとは思うが、翔太はあまり二人に負担をかけたくないとも思っていた。
(俺が皇であることが判明したら、サイバーバトルの件で梨花さんと関係があることは隠しようがないな……詰んだ)
もし、身バレしたら、翔太は腹をくくるしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます