第130話 天才子役
「くまりーって神代さんのことだよね?」
「そだよ。皇さんなら知ってるでしょ?」
「そ、その……この場で皇はやめてくれるかな」
翔太はキョロキョロと辺りを見回しながら言った。
「じゃあ、何て呼べばいい?」
翔太はしばし考慮したが、ここで偽名を使うのは悪手だと判断した。
雫石は確信を持って言っていたため、翔太に関する情報を握られていると思っておいたほうがいいだろう。
とにかく、今の姿で皇の名前はまずい。
「柊で」
「うん、知ってた」
「じゃあ、そっちで呼んでくれよ……」
「だって、柊さんが、皇さんだという確証がほしかったんだもん。現に、さっきの反応で引き出せたし」
「くっそー」
(小学生(推定)に手玉に取られてしまった……)
「神代さんを追いかけて、俺に行き着いたってことで合っているかな?」
「そうね、うちのマネージャーは優秀なんだ」
「そのマネージャーにご挨拶させてもらえないかな」
雫石のマネージャーに調査をさせていたようだ。
翔太としてはあまりやりすぎないように言っておきたかった。
「今はいないよ」
「なんで?」
「だって、柊さんと二人きりで話したかったんだもん」
翔太はがっくりと肩を落とした。
(後で橘さんに相談する必要があるな)
「私、くまりーの演技は、全部穴があくほど見ているんだ。
あのCMから、彼女の演技が更に良くなったの。
ずっと見てきたから、私なら違いがはっきりとわかるのよ」
CMとは、翔太が演技指導をしたアクシススタッフのCMを指しているのだろう。
「くまりーの演技が良くなったのは、柊さんが関わっているからってのが私の結論」
「ノーコメントで」
「くまりー超えを目指す私が、柊さんを気にする理由がわかったでしょ?」
「俺は演技に関してはど素人だから、あまり気にする必要はないと思うけど……
とりあえず皇に関しては黙っておいてくれないか?」
「うーん……どうしようかな」
「こらこら」
皇の名前はサイバーバトルで登録しているため、翔太が神代や美園のつながりがあることがわかってしまう。
「とりあえず、私の演技を見ていってよ。そのつもりだったんでしょ?」
「あぁ、そうさせてもらう」
当初の目的は主演の狭山を遠目に見ることであったが、翔太は雫石に興味が湧いた。
***
「これは……ライバルは狭山じゃなくて彼女だな」
翔太は雫石の演技に脱帽していた。
雫石は事件の恐怖から一言も声を発せなくなった少女を演じている。
身振りや手振り、表情や視線を駆使し、何を言いたいのかが声を聞かなくても伝わってきた。
狭山の演技も悪くはなかったが、場を支配しているのは明らかに雫石だった。
翔太は以前に神代の子役時代の映画を橘と観たことがあるが ※1 、雫石の演技はこれに引けを取らないと思えた。
***
「どうだった?」
「完全の俺の主観だけど、あの中にいた誰よりもよかったと思う」
「やったぜ!」
「そんなに抜け出して大丈夫なのか?」
「私、今日の出番はあれだけだから」
翔太はマネージャーと思しき人物を探そうとしたが――
「マネージャーならいないよ。残念でしたー」
「くそー」
「でも、柊さんって変わっているね」
「何が?」
「私のことを全然子ども扱いしないんだもん」
「今は撮影中だろ? 仕事に大人とか、子どもとか、関係ないんじゃ?」
「理屈ではそうだけど、感情はそうはいかないのだよ」
「うわっ、子供らしくないセリフ……」
「わざと子ども扱いしようとしたでしょ?」
翔太は半分本気で言っていた。
雫石の精神年齢は大人と言ってもいいくらいに成熟しているように見えた。
(まさか、俺みたいに人生二周目ってことはないよな?)
「うん、決めた!」
「何を?」
「連絡先を交換しよう」
「突然だな、拒否権は?」
「ないよ……そもそも、私の連絡先知ってる人なんて、ほとんどいないんだからね!」
(秘密を握られている以上、連絡をとれる手段があるに越したことはないな)
「じゃあ、皇さんのことを黙っておく条件はメールしておくね」
「今、言ってくれよ」
「いやよ、だって今から考えるんだもん。うわー、楽しみだなぁ」
「いい性格してやがる……」
⚠─────
※1 神代の子役時代のエピソードは、近況ノートに記載しています
https://kakuyomu.jp/users/kurumi-pan/news/16818093081667218943
頃合いを観て、公開するかもしれません
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