第124話 チャラ男
『チャラい』
『チャラいな』
『チャラいわね』
竹野に対しての印象はまったく同じであった。
明るい茶髪で、耳にピアスの穴が空いていた。
ホストが着るようなスーツを着ており、彼の印象はこの場にいない人物が見ても同じであろう。
石動は翔太の指示でエンプロビジョンに赴き、竹野に当てはまる条件の人材を採用したい旨を伝えた。
翔太は営業の綾部に顔が割れているため、何も知らない体を装って石動に行かせていた。
竹野の職務経歴は書面で確認し、今は新田を含めた三名で面接を行っていた。
場所は翔動の新拠点となったマンスリーマンションである。
「自分、前の職場ではデータベースを扱っていたので、こっちの仕事でもOKッス」
「当社はウェブアプリがメインなので、プログラミングとデータベースは両方できるのはありがたいです。
インフラに関してはちょっと特殊な環境なので、こちらは当社のメンバーの誰かがフォローします」
「マジッスか! ありがたいッス!」
***
「どう思う?」
石動は竹野を採用するかを二人に問いかけた。
「いいと思う」
「問題ないわ」
「じゃあ、決まりだな」
至極あっさりと竹野の採用が決まった。
「新田はああいうの平気なの?」
石動は竹野の見た目や言動を指して尋ねた。
「くそどうでもいいわね」
新田は技術力にしか興味がないようだ。
「柊は?」
「客先に出てもらうことはないから、問題はないと思う。
スキルがあって折り目正しい人は、とっくに大企業で働いているだろうし」
「そうなんだよなぁ……ある意味うちにとってはぴったりの人材かもな」
就職氷河期とはいえ、優秀な人材が大企業を志向するのはどの時代でも大きく変わらない。
翔動のような零細企業が優秀な人材を確保するには、何らかの戦略が必要となる。
新田を確保できたのは非常に幸運であり、ガチャに例えるとSSRかそれ以上だ。
「それにしてもいい場所ね、高かったんじゃないの?」
1LDKのマンスリーマンションは、LDKと洋室が壁のない状態でつながっており、非常に広々とした空間を執務スペースとして使っている。
キッチンには最新設備が施されており、翔太はここで自炊することを考えるほどだった。
「それが、そうでもないんだよ」
石動が疑惑の眼差しを翔太に向けながら言った。
「何? 柊があくどいことをしたの?」
「悪いことは何もしてねーよ」
「でも何かありそうだけど……」
新田もジト目で翔太をにらみつけていた。
(
「何もないとは言わないけど、俺が直接なにかをしたわけではない」
翔太は苦し紛れに言葉を選びながら言った。
「白鳥の親父と知り合いになったのか?」
「あぁ、その認識で合っている」
翔太は会社を運営していくうえで、この情報は共有しても問題ないだろうと判断した。
「それで気に入られちゃったと?」
「まぁ、そんな感じだ」
「どゆこと?」
「白鳥――俺の同僚の親父が白鳥不動産の社長なんだ。
このマンションも白鳥不動産で、仲介したのは関連会社なんだよ」
「その社長と柊が仲良くなったことね」
「そういうこと」
「うーん……柊ならおかしくないのかな……うちの社長ともつながっているし……」
新田は釈然としないながらも折り合いをつけているようだ。
「柊が何かを隠しているのはわかるけど、絶対言わないだろうからこれ以上の追求は無意味だな」
石動はあっさりと匙を投げた。
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