第125話 忖度
「なるほど、そういうことだったのか……」
「何勝手に納得しているんだよ」
翔太と石動はワンルームマンションで作業をしていた。
翔太はキッチンを活用し、二人分の夜食として蕎麦を用意した。
「新作映画が発表されたんだよ」
翔太はインターネットのニュースサイトで情報を確認していた。
「それで?」
「姫路さんが、映画『ユニコーン』で一位を取れという理由が今判明した」
「そういえば、そんなこと言われていたらしいな。なんで一位を?」
「ガーデンモバイルがメインスポンサーなんだ」
「なるほど、アストラルテレコムの競合会社か」
映画『沈黙の証人』は狭山が主演する刑事ドラマだ。
重要な証人である少女が、事件の恐怖から一切口を閉ざす。
主人公は証人となる少女を守りながら、事件の謎を追っていく物語だ。
ガーデンモバイルは携帯電話市場でシェア二位に付けており、シェアトップのアストラルテレコムを猛追している。
「よりによって狭山か……とはいえ関係することはないか」
「誰?」
「男性アイドルグループの一人で、女性の人気がすごく高いらしい」
「知り合い?」
「柊翔太の中学の同級生だそうだ」
「ええええっ!?」
石動は箸でつまんでいたかき揚げを丼に落としていた。
蕎麦つゆが跳ねたので、せっせと拭き取っている。
「狭山はユニコーンの主演候補で、グレイスビルでばったりと会ってしまったんだよ」
「マジか!? それで大丈夫だったのか?」
「案の定、向こうが一方的に知っている状態で、俺は何も言えなかった」
「ダメじゃん」
「梨花さんと橘さんが助けてくれたんだ」
「あれ? そういえばそんな話を聞いたことがあるような……詳しく」
「その話はとりあえず置いておこう」
「なんでじゃ!」
石動はあからさまに不満げな表情を浮かべた。
「問題は姫路さんが俺にだけ――しかも理由も告げずに一位を取れと言ってきたことだ」
「姫路さんはすでにガーデンモバイルの情報を掴んでいたってことだよな」
「おそらく、俺に勝手に動けということだと思う」
「どういうことだってばよ?」
「俺はヤ◯ザの鉄砲玉ってことだ」
「部下が勝手にやりました案件か」
「俺は部下ですらないから、余計に都合がいいだろうな」
「普通に部下に命令すればいいんじゃないの? 勅命ってそのためにあるんだろ?」
「映画を含めた興行は水物だからな、社内のリソースを使って失敗したら姫路さんの失点になる」
「かと言って、なにもしないで競合に負けてしまうとそれも失点になるってことか」
「そうなるな」
「体よく利用されたんじゃないか?」
「鉄砲玉と違って、成功しても失敗しても、刑務所に行かないからリスクはないと言える。
実際にペナルティは発生しないという言質は取ってある」
「リターンは……結構あるな」
翔動は映画のスポンサーになる予定だ。
したがって、興行収入が増えれば会社の利益に直結する。
翔太にとっては、霧島プロダクションの仕事の実績にもなる。
「成功すれば報酬を用意すると言っていたので、翔動に何らかの便宜を図ってくれるようだ」
「MoGeとの資本提携でも動いてくれたからな。
アテにはできないけど、そうなった場合はかなり大きな見返りになるな」
「GPSの件もあるので、両方を達成するとかなりの恩を売れると思う」
翔動のような零細企業がアストラルテレコムとのパイプを持つようになれば、何かと有利に働くこともあるだろう。
石動もそれを感じているのか、表情が明るくなった。
「でも、失敗するとどうなるんだ?」
「この程度の失敗でどうこうなるってことはないと思うけど、姫路さんの対抗勢力が勢いづくだろうな」
「対抗勢力って?」
「具体的な名前はわからなけど、とりあえず姫路さんの勢力を姫路派とする」
「政党みたいだな」
「まぁ、大企業で社内政治は避けようがない。
姫路さんは唯一叩き上げで昇進した役員なんだ、なので改革派と言っても良いかも」
「ふむふむ」
「そして、公社時代の流れを組む社長派……改革派に対する保守派の勢力があると見た」
「それが、姫路さんの対抗勢力か」
「あくまで、俺の主観だけどな」
「なるほどなー」
「そうでなくても、姫路さんは失敗した人に容赦しないので、派閥以外にも反発している社員は結構いると思う」
「勝ち続けている間はいいけど、負けると寝首を掻かれるかもしれないのか……恐ろしいな」
「社長派にも弱点はある。これは未来のこともあるから絶対に秘密だぞ」
「あぁ、わかった」
石動は蕎麦を啜りながら聞いていた。
「アストラルテレコムはオランダの通信事業者に巨額の出資をしていることは知っているか?」
「あぁ、ものすごい金額だったな」
「それが失敗して、資本関係は解消されるんだ」
「その案件が社長派ってことか……ってことは姫路さんに大きなミスがなければ……」
「未来の話はここまでだ」
「けちー」
石動はぶーたれながら、一味を丼にかけまくっていた。
「とりあえず、映画を成功させて困る人は俺たちの周りには誰もいないから、やれることはやるつもりだ」
「大賛成だ。何か策はあるのか?」
「実は――」
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