第115話 比較優位
「いえーい!」
神代と美園はハイタッチしていた。
チームユニコーンは予選を二位で通過し、決勝トーナメントに進出した。
準決勝と決勝を勝ち抜けば優勝となる。
ここまでくれば、映画のプロモーションの目的は十分に果たしたと言えるだろう。
明らかに素人集団と思われるチームが結果を残したことで、会場内はどよめいていた。
一位通過したのは鷺沼率いるチーム『それハッカやない』だ。
予選では圧倒的なタイムを叩き出しており、その差は全盛期のナリタブライアンの着差を彷彿とさせた。
「皇さん、決勝トーナメントの作戦はどうするの?」
「梨々花、大事なことを忘れているわ」
「あっ!」
神代は気づいたようだ。
今大会に出場した目的の一つに役作りがある。
ここで期待されるのは神代のリーダーシップだ。
神代は「うーん」と思考し、毅然とした表情で言った。
「皇さんは攻撃側メインとし、美琴は防御側をメインで担当して。私が全体の指揮をとるわ」
「OK」
「何で私が防御側なの? こっちも皇さんのほうが私よりできるじゃない?」
翔太は神代の意図を理解していたが、美園はピンときていないようだった。
「比較優位だよ。経済学では自身の最も優位な分野に特化すると生産性が高くなると言われているんだ」
翔太が補足して解説した。
神代は役作りのためにマーケティング関連の書籍を読んで勉強したりしていた。
「そう、美琴は攻撃よりも防御のほうが得意でしょ?」
「ええ、そうね。攻撃は苦手だわ」
「決勝トーナメントでは、攻撃側の難易度は跳ね上がるので皇さんの攻撃力がキーになるのよ。
なので、皇さんには防御側での負担を減らして攻撃に集中させたい」
「野球で言うとキャッチャーのリードに影響が出ないように、打順を下位にするってことね」
「そう、防御に回ったときに美琴がちゃんと守りきれるかが重要になるわ。できるわね?」
「もちろん!」
二人の士気はかなり高く、翔太は頼もしく思っていた。
***
「美琴、8080番!」
「わかっているわ!」
準決勝では美園が神代の指示のもとでシステムの防衛に当たっている。
翔太は相手の侵入経路から、どのような攻撃手段が有効かを考えつつ美園をサポートする側に回っていた。
対戦相手となるチームには、それぞれ別な部屋でオペレーションをするルールで、相手側のチームの声や表情などの情報は一切入ってこない。
このことで、対戦相手が正体不明であることが強調され、いかにもサイバー攻撃を受けているような雰囲気を醸し出している。
「3……2……1……防衛成功!」
「ふぅ、よかったわ……」
制限時間内に攻撃側の目的が達成てきなかった場合は攻撃失敗となる。
美園の対応は迅速かつ適切であり、神代の采配も的確であった。
(このまま映画のワンシーンとして使えそうなくらいだな)
役作りの目的は十分に果たしていると言えるだろう。
決勝トーナメントでは二回攻撃を成功した時点で勝利となる。
翔太はすでに一度攻撃に成功しているため、次の攻撃が成功すれば決勝進出だ。
「皇さん、後はお願い!」
「任された、美園さんが時間を作ってくれたので、次でケリを付けるよ」
『はあああぁっ!』『か、かっこいい』
神代と美園は恍惚とした表情で翔太を眺めていた。
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