第114話 強敵
「うわ……すごい報道陣だ」
サイバーバトルのイベント会場では報道陣がごった返していた。
例年のサイバーバトルはこじんまりとしたイベントであったが、今回は神代と美園が参加することで大きな話題になっていた。
大会の参加者はエントリーが締め切られてから公表されたため、神代と美園目当ての参加者はいなかったが、それでも例年より多くのチームが参加しているようだ。
「皇さん、PCの確認をお願い」
神代は持ち込んだラップトップPCの設定を会場の仕様に合わせて設定していた。
翔太は
チーム『ユニコーン』のメンバーはリーダーの神代と翔太、美園の三名だ。
神代をリーダーにしたのは映画の役柄に合わせる目的のほか、映画の話題性を高める狙いがある。
誰一人として戸籍上の名前が使われていないのが特徴であり、いかにもハッカーっぽい。
「遅くなってごめん、マスコミに捕まっちゃって……」
美園が息を切らせながらやってきた。
この大会では映画のプロモーションを兼ねているため、マスコミの対応もしっかりと行う必要がある。
翔太はできるだけ報道陣との接触を避けたかったので、早めに現地入りしていた。
「美園さん、対応おつかれさま」
「……誰?」
「皇さんだよ! 前に言ったじゃない!」
「え? ……ウソ? ……こんなになるなんて……聞いていない」
美園は両手で口を抑えながらワナワナと震えていた。
『だから、イケメンバージョンだって言ったでしょ!』
『ここまでなんて聞いてないわよ!』
『私がアピールしたのに、美琴が信じなかったんじゃない!』
神代と美園がヒソヒソと話しているが、突っ込んだら負けだと思ったのでスルーした。
「美園さん、そろそろ準備しないと」
「はっ!」
美園が慌ててPCのセットアップを行っている間、翔太は周りの様子を窺ったところ、会場中の視線が神代と美園に集中していることがわかった。
二人にとっては慣れていることのようで、普段どおりに泰然としていた。
むしろ、翔太のほうが値踏みのような視線だったり、好奇の視線を感じて居心地が悪かった。
「うげっ!」
「どうしたの? 皇さん?」
「知り合いというか……石動の師匠が参加者の中にいたんでびっくりした」
「ということは、皇さんが一方的に知ってるってことね」
神代は翔太の言ったことを即座に理解した。
石動の同僚であり、師匠でもある。
鷺沼のチームメイトと思われる二人は見知った顔ではないため、デルタファイブの社員ではなく、何らかのコミュニティでチームを組んだと思われる。
「どんな人なの?」
美園が興味を示してきた。
「石動――俺の知り合いが言うには、デルタファイブの日本法人で一番のエンジニアなんだよ」
美園の手前、翔太は伝聞口調で言ったが、鷺沼の実力は嫌と言うほど知っている。
「へぇ、このPCを作ってるところね」
美園は自分のラップトップPCを指して言った。
「日本ではサーバーのほうが売上規模が大きいんだ。
そのサーバーの知識では鷺沼さんよりできる人は見たことがない……と言っていた」
(あぶな、危うく断言するところだった)
「面白くなってきたね!」「へぇ、すごいじゃない!」
神代と美園の反応はポジティブだった。
(石動が鷺沼さんと対決したことは聞いていたけど、まさかもう一人の自分とも対決するなんて……)
***
「予選はタイムアタック形式で行われるんだ」
翔太は予選のルールを神代と美園に説明していた。
従来の大会では参加チームが少なかったため、一対一のトーナメント形式のみであったが、今大会ではトーナメント出場をかけた予選が行われる。
「予選の参加者は攻撃側になり、運営が用意した防御側のシステムを突破するまでの時間を競う」
「防御側のシステムはみんな同じものってこと?」
「そのとおり。システムはコピーされたものが使われ、同時に行われるので有利不利はないよ」
「公平なルールね、よかったわ」
仮に自分たちのチームが勝った場合、芸能人に有利なルールと疑われることは避けたかったのだろう。
「皇さん、何か作戦はある?」
「ないよ、二人の実力なら正攻法で行けると思う」
これは翔太の本音だった、最初は勝負にならないと思っていたが二人の成長は目増しく、かなりの努力を重ねてきたことを知っている。
「チームユニコーン、予選突破するよ!」
リーダーの神代の掛け声と共に予選が始まった。
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