第116話 それハッカやないハッカーや
「ったー!」「きゃー!」
チーム『ユニコーン』はストレートで準決勝の相手に勝利し、神代と美園は抱き合って喜んでいた。
翔太はこの様子を微笑ましく見守りながらも、この場面を写真に撮ったらものすごく高い値段が付きそうだと、不埒なことを考えていた。
***
「みなさんおつかれさまでした」
イベント会場の休憩所で、橘はチームメンバーにドリンクを渡してねぎらっていた。
「外の様子はどんな感じですか?」
「ユニコーンが勝ち上がったことで、報道関係者がかなり増えました。
映画の宣伝としては喜ばしいことですが、ちょっと心配ですね」
橘は少し疲れている様子だった。
マスコミの対応をしてくれているのだろう。
「皇さんの退路は確保しますので、ご安心ください」
「いつもありがとうございます」
翔太は自分の面倒を橘に任せてしまっていることに申し訳なさを感じていた。
「これは私の仕事です。皇さんにしかできない仕事に集中してください」
橘は翔太の言わんとすることを先回りして言った。
「それにしても変なチーム名ね」
美園はトーナメント表を眺めながらつぶやいた。
チーム『ユニコーン』は同じくストレートで勝利したチーム『それハッカやない』と対戦する。
鷺沼の性格をよく知る翔太は、チームの命名は鷺沼によるものだと確信していた。
「元ネタはアニメ映画のセリフなんだけど、実際にはそんなセリフじゃないんだよね……」
「え? そうなの!?」
ネットミームには実際に存在しないセリフが広まってしまうことがある。
代表例は『せやかて工藤』だ。
「『パンがなければ』のくだりも、マリー・アントワネットじゃないし」
「し、知らなかった……」
神代と美園は驚いていた。
翔太が体験したSNS全盛期では、怪情報が飛び交うと共にファクトチェックも活発に行われていた。
このSNSがエコーチェンバーとなることで気象兵器やワクチンデマなどの陰謀論が拡散し、その信者を食い物にしたビジネスがはびこっている状態となっている。
(しかし、このミームが流行ったのはもっと先だった気がするんだよな……)
神代も美園もサブカルチャーに詳しくないため、鷺沼のチーム名の元ネタを知らないことに不自然さはない。
しかし、鷺沼がまだ広まっていないネットミームを使ったということは――
(鷺沼さんが未来人である可能性も……さすがにそれはないか)
翔太は未来の知識を持つ人間が、この世に一人だけとは限らない可能性を常々考えていた。
仮に一人の宇宙人に遭遇した場合、二人目もいると考えるのは妥当ではないだろうか――
(いやいや、宇宙人と未来人を一緒にしたらダメだろ……)
(仮に鷺沼さんが未来人だったとして――)
鷺沼はあえて未来人にしかわからないネットミームをチーム名にすることでコンタクトを図ろうとした可能性が――
(いやいやいや、そんなわけないだろ! そもそもすでにこのミームがあるかもしれないし……)
「どうしたの皇さん?」
神代が心配そうに声をかけてきた。
「その……鷺沼さんに勝つ方法が思いつかなくて……」
翔太はとっさにごましてしまったが、これも本音だった。
予選の成績からすると、仮に翔太が石動と新田とチーム組んだとしても勝算がないくらいの相手であった。
「まさか相手チームの名前でこんなに振り回されるなんて……あっ!」
「なにか気づいたの?」
「最初のターンを捨てていいかな?」
翔太は思考の沼にハメられたことを、そのまま鷺沼に返すことにした。
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