第95話 知り合い?
「うわっ! こんなに広いのね」
オペレーションルームで美園は驚いていた。
翔太は映画『ユニコーン』のロケ地であるアストラルテレコムのオペレーションルームを案内していた。
前回はオペレーションルームを見下ろす見学ルームを案内していたが、今回はオペレーションルームの内部を下見することで、出演者がより演技のイメージを掴むことを目的としている。
人気女優である神代と美園、そして橘と、容姿が整った若い女性が訪れていることで、オペレーターたちは浮足立っていた。
さすがにこのタイミングで大事な作業をすることはないだろうが、翔太はオペレーターが神代たちに見とれて作業ミスをしないか、気が気でなかった。
「この大型モニターで、システムの監視を行っています」
映画関係者には、管理者の加古川が説明を行っていた。
翔太は加古川へ映画出演者の見学を申し出たところ、彼自身が案内役を買って出た。
大型モニターは無用の長物であることを翔太は神代に説明していたが、ここではスルーした。
壁面を覆うほどの巨大なモニターに、美園と川口は見入っていた。
監督の風間はアングルを考えながら、カメラを回していた。
事前に撮影をすることを周知していたため、現場のオペレーターには、機密事項に関連する作業は行わないよう、周知されていた。
「演技の参考になりそうですか?」
翔太は美園に声をかけた。
この場所で撮影されるシーン125では、神代と美園の見せ場となる場面だ。
「実際に席に座ってみたいわね」
シーン125での美園はオペレーションを担当する。
PCを操作することを考えると、美園の要望は妥当だろう。
問題は大型モニターの近くの席が使えるかどうかだが――
「ぜ、ぜひこの席にお座りください!」
オペレーターの一人が緊張した面持ちで美園に席を譲った。
机上のモニターは画面ロックが施されており、関係者が立ち会っていればセキュリティは問題なさそうだ。
美園は「ありがとうございます」と感謝の言葉を口にし、着席しながら大型モニターとの位置関係を確かめていた。
オペレーターは、その様子を恍惚とした表情で眺めていた。
「風間さんと、神代さんは問題なさそうですか?」
神代は指揮をとる役であるため、適切な立ち位置を探るべくオペレーションルーム内のあちこちを行き来し、それを風間が撮影していた。
風間と神代は、その映像を熱心に確認していた。
「はい、いいと思います!」
神代の目は真剣だった。
「うん、いい絵が取れそうだ」
風間も満足そうだった。
「――お、お疲れさまです!」
オペレーションルーム内に緊張が走った。
人気女優二人を前にして弛緩していた加古川の表情も一気に引き締まった。
「姫路さん、こちらに来ていたのですね」
翔太は女帝こと、姫路に挨拶をした。
「ええ、柊くんがこちらに来ていると聞いて」
姫路の一言で、室内がざわつき始めた。
姫路は普段、本社ビルにいて、この場に訪れることはめったになかった。
先程までは映画関係者に向いていた視線が、一気に翔太に集中した。
『雅代さん……』
美園が驚いた表情をしながら姫路を見ていた。
姫路の下の名前を呼んだ人物は、翔太の知る限りでは美園が初めてだった。
(知り合いなのか?……意外な組み合わせだな)
姫路は美園を一瞥しただけだった。
少なくともこの場では、無関係であるかのように振る舞いたいようだ。
「柊くん、今から時間とれるかしら?」
姫路は単刀直入に切り出した。
翔太は橘を伺った。
今は霧島プロダクションとしての仕事としてこの場にいる。
加古川が案内しているため、翔太がいる必要はないといえばない。
姫路はそれを見透かしているようだ。
「柊さん、あとは私にお任せください」
橘は翔太と姫路の意図を汲み取ったのか、すぐにフォローしてくれた。
神代と美園は残念そうな表情を浮かべた。
(後で謝らないと……)
本来であれば、このような姫路の傍若無人な振る舞いが許されるのはアストラルテレコムの関係者だけだ。
「加古川もいいわね?」
「は、はい!」
加古川はしきりに恐縮していた。
翔太の前の人生では、姫路によって加古川のクビが飛ばされていた。
今回は、翔太が彼を助けたことで、この場でのロケが実現していた。
「加古川さん、橘さん、後をお願いします」
唐突に役目を失った翔太は後を託し、姫路に連行された。
翔太の脳内ではドナドナが再生された。
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