第94話 報告
「柊さん、昨日は何をしていたの?」
グレイスビルの休憩室で神代が尋ねてきた。
白川に拉致されている間に、橘には直帰することをメールで伝えていた。
(ヤ◯ザに脅されて、綾華と結婚させられそうに……って言えるかーい!)
どの部分を切り取っても神代を不安にさせる要素しかなかった。
「スターズリンクの候補地を下見に行ったら、その土地に詳しい人にばったり会って説明してもらったんだ」
翔太は可能な限り嘘にならないように伝えることにした。
「ふーん?」
神代は納得していない様子で、黒曜石のような美しい瞳を翔太に向けていた。
彼女は役作りのために人間観察を欠かさない。
おそらく翔太が何か隠していると察したのだろう。
***
「危ないことをしないように言ったはずですが?」
(こ、怖い……)
会議室で翔太の報告を聞いた橘は、刺すような目をしながら言った。
霧島の指示で動いている案件であったが、翔太は橘にも情報を共有するべきと判断した。
さすがに白川との縁談については伏せている。
「黒田さんが白鳥家側の人員であることは私も承知しています。もちろん、霧島もです」
橘は翔太が確認したいことを先回りして言った。
翔太は「ほおーっ」と安堵した。
橘にはできるだけ隠し事をしたくなかった。
「あのときの報道規制は――」
「はい、私から黒田さんにお願いしました」
黒田は白鳥家から与えられている権限はかなり大きいと推察される。
一般的に芸能人のマネージャーは所属事務所の利益を優先して行動する。
しかし、黒田に関してはそれに当てはまらないだろう。
霧島プロダクションの利益になる仕事よりも、白鳥家や白川を優先して行動すると思われる。
霧島もそれを承知のうえで黒田をマネージャーとして付けていることから、霧島プロダクションと白鳥家の間に何らかの密約や協定などがあるのかもしれない。
(そもそも、なんで綾華がアイドルやっているんだって話だよな……)
翔太は白川の事情を少し知ることで、ますます彼女に対する謎が深まってしまった。
いずれにしても、翔太が立ち入る類ではない。
「ロケ地での下見の件についてですが――」
翔太は白川のことは保留にして、映画の仕事に集中することにした。
***
「なるほど、白鳥不動産と柏葉不動産が手を付けていた土地でしたか」
グレイス本社ビルの会議室で木場は得心するように言った。
木場はグレイスの社長で、スターズリンクプロジェクトの責任者だ。
翔太は庭場組のことは伏せて関係者に調査内容を報告していた。
「となると、ここは無理そうですね」
木場は残念そうに言った。
グレイスと白鳥不動産では資本力が桁違いだ。
「すごくいい立地だったので、残念だね」
宇喜多も残念そうに言った。
宇喜多は霧島カレッジの所長を務めている。
「代わりと言ってはなんですが、白鳥不動産からこの土地を紹介いただきました」
翔太は候補地となる情報をまとめた資料を提示した。
「ふむ、条件としては悪くない。いや、立地を考えるとかなり安いですね!」
木場の表情が一転して明るくなった。
「駅から近いので、候補生にとっても利便性が高くていいと思う」
宇喜多も満足そうだ。
「ああ、いいんじゃないか。柊、お手柄だな!」
霧島が上機嫌に言った。
霧島が言ったことで、霧島カレッジの新施設の場所が決まった。
「どうやって柊がこれを持ってきたのかは、今は聞かないでおいてやるよ」
霧島はニヤリと口角を上げながら言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます