第92話 後継者
「この挟み揚げは二度揚げされているんですね。すごく美味しいです」
翔太は蓮根の挟み揚げの感想をこぼした。
翔太は白鳥邸の食堂で夕食を振る舞われていた。
白鳥家の面々は食事をする所作も絵になるほど美しかった。
翔太は内心、箸使いなどに無作法がないか気が気でなかった。
「あら? よくわかりますね。私が作ったんですよ」
紗華は嬉しそうに言って、破顔した。
翔太は白鳥家には専属の料理人が付いていると思っていた。
フィクションで見るような金持ちの情景を想像していたため、ステレオタイプな自分の発想に恥ずかしくなった。
「 私も蓮根の挟み揚げは作りますが、ここまでうまくはできませんでした。
味噌とごま油が少し入っているんですね……なるほど……」
「綾華の言うとおり、柊さんはお料理が得意なんですね。もしよろしければ作り方をお教えしましょうか?」
「ええ、ぜひ」
「ふふ、柊さんとお料理するのも楽しそうですね」
(しゃ、社交辞令だよな……?)
「今日は本当に助かりました。ありがとうございます」
翔太は「お礼が遅くなってしまい、申し訳ありません」と言いながら礼を述べた。
あの場での白川の助けがなければ、指の数が減っていたかもしれない。
「さすがにわかったと思うが、あの土地はいわくつきなんだ」
詮人は少し疲れたように言った。
「うちの会社と柏葉不動産が同時に目をつけていたんだ。
柏葉不動産側が買収の目処が立つまで、庭場組を使って土地を占拠していた。
当然ながら、褒められた方法ではない」
庭場組は翔太を脅した暴力団のことだろう。
「ということは稲庭ソリューションズは――」
「庭場組のフロント企業だ」
「そんな危ない土地に私は手を出そうとしていたんですね」
「申し訳ありません、事前に止めることができなくて」
白川が申し訳なさそうに謝った。
「いや、あの状況では最適な対応だったと思うよ。本当にありがとう」
グレイスビルの場で白川が指摘していたら、彼女の素性が明らかになってしまう可能性がある。
それは彼女にとって苦渋の決断だったに違いない。
「あの土地は、うちの調査部門が相当な時間と労力をかけて調査したんだ。
柊くんがそれを簡単に見つけたことに驚いているよ。
よかったら、どうやって見つけたのか教えてくれないか?」
詮人は真剣な表情で、好奇心に満ちた目を輝かせながら言った。
「公開されている地価公示価格や直近の取引価格などを基に、モデルを作成しました。
土地の利用状況や地域特性などの特徴量を入力し、独自に作成したアルゴリズムから割安な条件を抽出しました。
残念ながら、私は不動産の専門知識を持ち合わせていないため、公開データに基づいて判断していますが――」
翔太は未来で使われている機械学習のモデルの要素を端折って説明した。
「ちょっと待って! 公開データだけでここまで辿り着いたっていうのか!? 専門知識もなしで!?」
詮人は驚愕していた。
「グレイスが持っているデータは電子化されていなかったので、そうなります」
「詳しく教えてくれないか?」
詮人は翔太に矢継ぎ早に質問を浴びせ、翔太は丁寧に答えた。
いつの間にか詮人はメモを取りながら、翔太の話に熱心に耳を傾けていた。
白川と紗華は呆然と詮人を眺めていた。
「――すまない。つい夢中になってしまった。
データを扱うだけで、こんなに有益な情報が得られるなんて驚きだ……うちの会社でもここまでできる人材はそうそういない」
詮人は興奮冷めやらぬ様子だった。
「柊さんは特別です」
なぜか白川が勝ち誇ったように言った。
「いずれは
「はあぁっ!? ……し、失礼しました」
詮人がとんでもないことを言ったため、翔太は素で驚いてしまった。
義人は白川の兄で、石動の同僚でもあり、翔太がよく知る人物だ。
石動は白鳥と呼んでいる。
「義人のことは知っているかな?」
「はい、面識もありますし、石動から聞いています」
詮人には、白鳥が石動の同僚であることを伝えた。
さすがに前の人生で同僚だったとは言えなかった。
「義人は組織のトップには向かない性格なんだ」
詮人は白鳥を後継者に推したかったようだが、彼の表情はそれを否定しているように見えた。
そして、詮人が放った次の一言が、翔太をさらに驚かせた。
「柊くん、綾華と婚約しないか?」
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白鳥家の人物です ※ 続柄は白川を本人としたもの
白鳥尊人: 祖父、白鳥グループ総帥
白鳥詮人: 父、白鳥不動産社長
白鳥紗華: 母、元女優、芸名: 筒井紗華
白鳥義人: 兄、デルタファイブに勤務、石動の同僚
白鳥綾華: アイドルグループPawsのメンバー、芸名: 白川綾華
黒田: 白川のマネージャー
赤澤: 運転手?
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