第79話 LMS
「おぅ、お前が石動か」
(ヤ○ザの親分?)
霧島に対する石動の第一印象が翔太と全く同じだった。
「俺のことは霧島でいいぞ」
「株式会社翔動の石動と申します」
石動は作りたての名刺を差し出した。
石動と立ち上げた企業『翔動』の初の商談として、翔太は霧島プロダクションの社長室に石動を連れてきた。
石動は、タレント養成所『霧島カレッジ』の所長である宇喜多と、声優コースの講師である名取と挨拶をした。
「スターズリンクプロジェクトについては聞いているかな?」
「はい、伺っております」
宇喜多の質問に石動が答えた。
スターズリンクプロジェクトは、分散している霧島カレッジ拠点を一箇所に集約するプロジェクトだ。
「これに合わせて、各コースでばらばらに管理されている情報を一元管理したいと考えているんだ」
霧島カレッジでは、候補生のプロフィールや出欠、成績などがコースごとで管理されており、宇喜多が全体像を把握できない問題を抱えていた。
「はい、弊社が開発を進めているLMSをご検討ください」
石動は自社製品のプレゼンテーションを始めた。
「LMSって何ですか?」
神代が質問した。
神代は映画『ユニコーン』の役作りの一環として、この場に参加している。
翔太は石動に映画の概要と神代の役柄を説明していた。
映画では、神代演じる的場が起業する場面があるため、現在の石動の立場に近い状態である。
したがって、神代は石動の一挙手一投足を注意深く観察しているが、これが石動にとってはかなりのプレッシャーになっている。
「LMSはLearning Management Systemの略で、学習管理システムとも呼ばれます。
カリキュラムや教員、受講生のデータを一元管理できます」
石動は資料をプロジェクターに投影しながら説明を続けた。
「例えば、教師が出した課題などはすべてこのLMSで管理されます。
この課題に対して、生徒の提出状況やスコアなどが記録されるため、このように学習状況が一望できます」
画面には、サンプルの課題に対して、課題の提出有無や得点が可視化されて表示されている。
宇喜多は「おおっ」と声を上げながら、熱心にそれを見ていた。
「質疑応答は可能ですか?」
「はい、テキストによるチャット機能があり、質問内容は受講生間にも共有できる仕組みになっています。
加えて、講義の録画や録音を任意のタイミングで視聴できます」
名取の質問に石動が答えた。
石動の説明に宇喜多や名取は熱心に耳を傾けており、映し出されたLMSの機能に興味深そうに見ていた。
「伸びそうな候補生を予測する機能があるんだよな?」
霧島は翔太に対して言った。
この案件自体は、以前から霧島に相談を受けており、実装できそうな機能は説明していた。
ここでの翔太はやや微妙な立場だ。
翔動に出資はしてるものの、現状はまだアクシススタッフの社員であり、この場では霧島プロダクション側の人間ともいえる。
「はい、機械学習という手法を使って、候補生の属性や実績のデータなどから数字に現れないような、才能を発掘できる可能性があります」
この時代において、翔太が使っている機械学習のモデルはオーバーテクノロジーだが、そのことを知っているのはこの場では石動だけだ。
「まずは声優コースで導入しようと考えている。
新たな科目も加わるし、これの評価をするという点でも都合がいいだろう。
名取はどうだ?」
「はい、候補生の音声データを管理できるようなので、ぜひ使ってみたいと思います」
霧島の問いに名取の反応は前向きだった。
石動はほっと胸をなでおろした。
***
「ふー、緊張しました」
本社ビルの休憩室に移動した石動は脱力していた。
「おつかれさまでした。
心配しなくても、霧島は柊さんのことを信頼しているので、まとまると思いますよ」
橘の発言で、石動は「そうですかぁ」と安堵した。
「演技の参考になった?」
翔太は神代に聞いてみた。
「うん、石動さんの緊張感が伝わってきたし、オーディションのシーンとは演技を少し変えたほうがよさそう」
「そうだね、最初は石動のような場馴れしてない感じを入れたほうが、主人公の成長が際立ちそうだね」
「おぃおぃ、本人を目の前にして……ってそのとおりなんだけど」
石動のプレゼンテーション中、翔太は内心、羞恥心で身悶えしていた。
昔の恥ずかしい自分を録画されて、それを見せられている感じだった。
「ふふふ、石動さん、梨々花のためにありがとうございます」
「こちらこそ、できたばかりの会社にビジネスチャンスをいただいて感謝しています」
「そういえば、社長が言っていた新たな科目ってなんですか?」
「それは――」
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