第71話 羞恥プレイ
「
(俺の声はイケメンボイス、イケメンボイス、イケボイケボイケボ……)
翔太はとっさに思いついた名前で自己紹介した。
偽名を考えたとき、『石動』が浮かんだが、リスクを避けた結果、似たような名字が思い浮かんだ。
翔太はCLAMP作品が好きだった。
(歴史物のフィクションに登場しそうな名前だな……)
声バレを防ぐために、イケメンっぽい声を出してみたが、神代のようにはいかないのでヒヤヒヤしていた。
四名は、イタリアンレストランでランチをとることになった。
翔太は断固拒否したかったが、神代が乗り気だったのは意外だった。
(デートって二人きりになりたいもんじゃないの?)
野田と今宮の向かいに、神代と翔太が座っている。
「それで、お二人はどこで知り合ったんですか?」
今宮が興味津々に聞いてきた。
「しょうくんとは、仕事で出会ったんだよ」
彼氏役を強要された翔太は、正体がバレないか、心臓がバクバクしている。
翔太とは違い、神代は泰然としている。
「皇さんは、リカさんのどんなところが好きになったんですか?」
今度は野田が聞いてきた。
(え? 俺年上なの?)
「リカは、すごい努力家なんだよ。
仕事では、かなり難しいことを要求したんだけど、一度も嫌と言わずに全部こなしてしまうんだ。
俺にはできないことだから、すごく尊敬している」
「リカさんはどうなの?」
今宮は神代にも聞いていた。
『梨花だって梨花だって梨花だって!……キャー!!!』
神代は、なにやらブツブツと言いながら悶絶している。
「――へ?」
「皇さんの好きなところだよ」
「――最初はボクががんばっていることに気づいてくれたことがきっかけだったんだ。
ほかの誰も気づかなかったのに――」
神代はとつとつと語りだした。
「ボクのがんばりを見てくれたしょうくんは、さらに難しいことを要求してくれて――それで一緒に仕事することになったんだけど――次々と問題が起こって――しょうくんが全部解決してくれて――それがかっこよくて――そういうのって今まで接してきた男の人はすぐ自慢してくるんだけど……しょうくんは当たり前のような顔をしているのが――」
「リ、リカ、その辺で――」
翔太は暴走した神代を止めた。
このままでは翔太も恥ずか死ぬことになる。
「ラブラブだねぇ♪」
今宮の言葉に翔太と神代は、湯気が出そうなほど真っ赤になった。
***
「――それで、柊がチケットをくれたんだよ!」
野田と今宮がPawsのコンサートに参加した話題になっている。
翔太としては避けたかった話題の一つだ。
「しらーや 最高だったよ! 柊さんにお礼言いたいから、今度会わせてよね!」
((今会ってる! 目の前にいるよ!))
今宮は野田と同様に、白川推しだ。
「あいつ、どうやってチケットを手に入れたんだろうな……」
チケットの入手経路については詮索しないように釘を刺してある。
『あれは私のためにやってくれたんだよね……でも綾華が……ぐぬぬ……』
事情を知っている神代は葛藤している。
「あ、あの……野田さん!」
「ん、なに?」
「ボク、野田さんに感謝しているんだ――なんで感謝しているかは今は言えないんだけど……いつかわかるときが来たら、今のことを思い出してくれると嬉しいんだ」
「あ、あぁ、わかったよ」
翔太は不器用な言い方をする神代を暖かく見守っていた。
(いつか野田に打ち明けるときが来るのかもな……)
「ひ、柊さんって人は、貴重なチケットを渡すくらい気前がいい人なんだね……」
翔太はなんとか話題を反らす方法を考えている。
「柊さんは芸能人に興味ないって言ってたし……」
あの時を思い出して、神代はぷんすかと怒っている。
「あの時はレイカさんもいたんだよなぁ……突然の美人姉妹の登場で眼福――あいたっ!」
今宮に抓られた野田は悲鳴を上げた。
今宮は、アストラルテレコムでの経緯については野田から聞いているようだ。
「芸能人に興味がないってことは年上好きってことかな?
もしかして、リカさんのお姉さんが好みとか……?」
今宮は翔太の恋愛事情にも興味津々らしい。
「えええぇ! それは困るよ!」
「「なんで?」」
「あっ!」
神代は自分の失言に気づいた。
「ほ、ほら……ボクの友達を紹介できないし――」
「あいつ、浮いた話全然しないし、男が好きってことはないかな……」
「えっ?! 困るよ!」「え?! うそ!!!」
神代が困惑する反面、今宮は生き生きと目が輝き出した。
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