第66話 真相
「Snoteは、元素記号の『Sn』と音を表す『note』をつなげて、『鈴音』ということだと思います」
「なるほど」
翔太は、戻ってきた橘と霧島に調査の内容を共有していた。
「杜氏原は、星野さんのブログにコメントを書き込んでいたのですが、NGワードが入っていたのでことごとくブロックされていました。
これに立腹して脅迫に及んだと考えられます」
動機については警察の調査で明らかになっていくだろう。
「ブログのコメントとメールの脅迫文に類似性があったということでしょうか?」
「はい、ブログのほうがより古めかしいコメントでしたが、同一人物の可能性が高いです」
「どうやって特定したんだ?」
「IPアドレスを確認したところ、二箇所から書き込みがありました。
一つは警備会社のワンセキュリティからです」
「うちが警備を頼んだところか!」
「はい、明確な脅迫ではなく、いたずらっぽくしたのは、現場に配備される警備員を少しでも増やしたかったからでしょう」
「そうすれば、杜氏原自身が現場に配備される確率が上がるってことですか……
まんまとしてやられましたね」
橘は警備を増強したことを後悔したが、あの状況では仕方がないだろう。
「もう一つは、杜氏原の自宅でした。
杜氏原が利用していたプロバイダーがCFだったので、上村さんの伝手を使って調べてもらいました」
この時代には個人情報保護法が施行されておらず、上村の判断で翔太に情報が渡された。
「調査に協力していただいた三名の方には、本件を口外しないようお願いしました」
「ありがとうございます。助かります」
三名とは、サイバーフュージョン社長の上村、CTOの中谷、調査を行った佃である。
「実は、柊さんの携帯電話を――」
橘は、柊の携帯電話の通話履歴を勝手に見たことを謝罪した。
翔太は、橘のことを信用しているので、全く問題ないことを伝えた。
ちなみに、現場に大隈がいたことを後で知ることになる。
「『Pawsエンカウント』だけに脅迫メールを送ったのは、ワンセキュリティが警備することを知ったからってことだな」
「そうでしょうね」
後日、ワンセキュリティから霧島プロダクションに対して補償がされることになった。
杜氏原一人の行為で、警備会社としての信頼は失墜してしまった。
「悪質なコメントを複数した場合、ブログのアカウントを凍結する仕組みになっています。
杜氏原のアカウントは凍結済みで、発見が遅れてしまいました。
申し訳ありません、私の失策でPawsのみなさんを危険な目にあわせてしまいました」
翔太は、改めて二人に侘びた。
「こんな短期間で見つけてくれると思わなかったよ。ありがとう。
危うく取り返しがつかないところだった」
「私だけでは対応しきれませんでした。本当に感謝しています」
「こちらこそ感謝しています。橘さんに命を救っていただきました」
できれば杜氏原の確保までしたかったが、想定以上に柊翔太が非力だった。
徹夜していたことも影響していた。
『――あの、霧島さん』
『どうした?』
『お願いがあるのですが――』
翔太は橘に聞こえないよう、こっそりと霧島にお願いをした。
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