第65話 見知らぬ、天井
「ここは……」
意識を回復した翔太が見たものは、見知らぬ天井だった。
ここは病院の個室のようだ。
「翔太!」
病室にいた蒼は、翔太に意識が戻ったことに気づいた。
翔太は蒼に状況を教えてもらった。
脇腹を刺された翔太は、すぐに病院に搬送された。
内臓に損傷はなく、縫合処置が行われており、一週間程度の入院が必要なようだった。
「あの、事件に関してはご存知ですか?」
「橘さんが説明してくれたわ。もー、無茶しちゃって!」
「すみません。他の人は無事でしたか?」
翔太の記憶では、自分が刺された後の杜氏原の行動を把握できていなかった。
星野たちに危害が加わっていないかが心配だった。
「翔太が刺されてから、すぐに拘束されて逮捕されたみたい。
Pawsのみんなは無事だそうよ」
「よかった……」
翔太は心底安堵した。
「詳しくは橘さんが説明してくれると思うけど、彼女にはちゃんとお礼しておくのよ。命の恩人なんだから!」
「もちろんです」
意識を失う前に、橘がいた記憶が残っていたため、彼女がその場を収めてくれたのだろう。
自分が仕留めきれなかった杜氏原をなんとかし、翔太の命を救い、おそらく情報統制もしてくれているのだろう。
(これは一生頭が上がらないな……)
翔太の意識が回復したため、医師による問診や症状の説明などが行われた。
「コンコンコン」「はーい」
ノックの音に蒼が返事した。
橘が入ってきた。
「あ、柊さん! 気がついたんですね!」
普段冷静な橘が、安堵しつつも喜んだ表情を見せながら言った。
「ご心配おかけしました。それと、助けてくれてありがとうございます。
この御恩は――」
「もう無茶しちゃ駄目ですよ」
橘は翔太のお礼を遮るように言った。
その表情は優しく、いたずらっこの園児を「めっ!」と嗜める保育士のようだった。
「橘さん、ごめんなさい。
私、途中で仕事を抜けてきちゃったので、しばらく翔太をお願いしてもいいでしょうか?」
「はい、お任せください」
「翔太、お父さんとお母さんがこれから来るから、心配かけないようにしなさいよ」
「はい……」
蒼は仕事の合間を縫って駆けつけてくれたようだ。
翔太は、両親が遠路はるばる来てもらうほどではないと思ったが、口には出さなかった。
(柊一家には心配ばかりかけてしまってるな)
「柊さんの情報ですが――」
翔太と二人きりになった橘は、翔太に状況を説明した。
杜氏原による傷害事件として処理されていたが、被害者である柊翔太の名前は公表されないように手配してくれたようだ。
「なにからなにまで、本当にありがとうございます」
「いえ、こちらこそ、当事務所の問題で柊さんに怪我をさせてしまって、申し訳ありませんでした」
橘は、翔太に向かって深々と頭を下げた。
「杜氏原はどうなったのでしょうか?」
「傷害罪で逮捕されています。
脅迫の件は、威力業務妨害罪として訴追されることになると思います」
「杜氏原が、メールで脅迫したSnoteということですね」
「はい、そのように供述しているようです」
「脅迫メールの件は解決したということですね」
「はい、柊さんのお手柄ですね。本当にありがとうございます。
警察による事情聴取があると思いますが――」
「コンコンコン」
***
「本当にすまなかった!」
霧島は病室に入るなり、深々と頭を下げた。
橘は神代に連絡を入れるため、退室していた。
「あのメールが来た時点で、イベントを中止させるべきだった。
今回の件は、全て俺の責任だ」
「いえ、こちらこそ見落としがあって、犯人の特定が遅くなりました。
そのせいで、Pawsの皆さんを危険な目に合わせてしまって申し訳ないです」
翔太も自分の不甲斐なさを反省していた、星野たちに危害が及んでいたらと思うとゾッとする。
「いや、うちの体制も……まあ、反省会は後でやろう。
柊、どうやってヤツを特定したんだ?」
「それは――」
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