第63話 判明

「ビンゴ!」

翔太は叫んだ。徹夜でハイテンションになっている。


💻─────

貴殿の食事の様子を拝見し、筆を執らずにはいられませぬ。

かような贅を尽くせし食事!ファンの熱き想いを余所に、己の欲のままに舌鼓を打つ姿勢!これぞまさに、芸道を忘れし者の所業に他なりませぬ。

音楽に精進すべき貴重なる時間を、かくも軽々しく費やすとは...! 心中、憤怒の炎が燃え盛るばかりにございます。

食事に溺れるのではなく、音楽への献身を! さもなくば、貴殿の音楽キャリアは、この豪奢なる食事と共に、消化され、排泄されることとなりましょう。

時は刻一刻と過ぎゆく。今こそ、己の立場を顧みる好機にて候。

─────⌨


星野のブログに対するコメントは、Snoteのものと思われた。

特に『時は刻一刻と過ぎゆく』のくだりは、流行語でない限り、同一人物と見て間違いなさそうだ。


いくつか同様な文体のコメントがあり、すべてNGワードが含まれていたため、公開されていない内部情報だった。


「BANしたコメントも確認すべきだった……迂闊」

翔太は後悔したが、今は星野が危険な状態だ。


「IPアドレスが二種類ある……これは――」


***


翔太は橘に電話した。

「――もしもし、橘さん、Snoteは現地にいる警備員です。

やつの狙いは星野さんです。」

「何ですって!?」

「警備員の中で不審な人物がいないか、大至急確認するよう伝えてください!」

タクシーで向かっています。星野さんはどこにいますか?――」


次に上村に電話をかけた。

「上村さん、すみません、私情の要件ですが、お話大丈夫でしょうか?

――御社のプロバイダ利用者に、キリプロさんのタレントを脅迫している人物がいます――」

「何だって!――」


上村にSnoteの特定を依頼した後、佃から電話があった。

佃は、以前はISPの部門に所属しており、ネットワークのスペシャリストだ。

上村はCTOの中谷を経由して、佃を動かしたようだ。


「佃です、柊さんから依頼されたIPアドレスを確認しました。

ご想像のとおり、ワンセキュリティの社員です。

名前は――」


(頼むから、無事でいてくれ!)


***


ファンイベント『Pawsエンカウント』は盛況に終わった。

星野はPawsのメンバーと共に、控室で休んでいた。


「コンコンコン」「はーい」

ドアのノックにメンバーが対応した。


「星野様はいらっしゃいますか? ご伝言を預かっています」

警備員と思われる男がドアの外から話している。


「はい、星野は私です」


星野は他人相手には普通に話していた。

ファン相手には愛想よく振る舞い、相手によって話し方を変えていることを、身内はわかっていた。


星野がドアに近づいたところで、男がドアを開けて叫んだ。

鈴音すずねちゃん!僕を無視しちゃ駄目じゃないかぁ!」


男が星野に掴みかかろうとした。


「「きゃああああ!!!」」

周りのメンバーは悲鳴を上げ、星野はすくみあがっている。


***


「はぁはぁ」

翔太はタクシーを降りて走っていた。

久しぶりに体を酷使しているため、心臓が悲鳴を上げている。

徹夜明けも影響しているのだろう。


この件が片付いたら、ちゃんと運動することを誓った。

(なんかフラグっぽいな……)


控室の前に到着すると、ドアが空いていた。


「「きゃああああ!!!」」

若い女性の悲鳴が聞こえた。


翔太は控室の中へ駆け出した。

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