第52話 山本隊員

「情けない」

山本は己の無力さを嘆いた。


スポンサーに関する責任は山本にあるが、MoGeに対して役務を果たせなかったどころか、出演者や広報担当者へのハラスメント行為を看過することになってしまった。


この時代では、芸能界と同様に映画制作会社もコンプライアンス体制が確立されていなかった。

このような経緯から、和竹のハラスメント行為については、蒼が所属するクオリアのコンプライアンス部門で管理されることになった。


山本は、和竹の行為に強い憤りを覚えていたが、自分が所属する組織である夢幻では対応能力がないことに落胆した。

この件が片付けば、会社の上層部に掛け合い、コンプライアンス部門の設立を提言するつもりだ。


現在、山本はMoGeの代わりとなるスポンサーを獲得するために動いていた。

スポンサーが見つからなかった場合は、クランクインまでに予算を調整する必要があるが、この場合は制作費または宣伝費を削減することになりそうだ。

いずれも興行収入に影響するため、予算調整は最後の手段となる。


翔太が依頼している企業がスポンサーとなった場合は、メインスポンサーであるサイバーフュージョンと同等の資金が得られる可能性があるが、これを当てにはできないだろう。


山本は、翔太から提供されたグループウェアを使って、資金管理を行っていた。

MoGeからの資金がない状態で予算配分のシミュレーションをしているところである。


このグループウェアでは、資金管理のほか、映画製作におけるタスクやスケジュール管理が行える。

期限が迫っているタスクは携帯電話のメールに通知される仕組みがあり、それぞれのスタッフが責任感を持って仕事をこなすようになってきた。

グループウェアを活用することで、資金繰り以外の工程は円滑に進められていた。


また、映画の脚本もこのグループウェアで管理・共有されており、脚本家の雪代と翔太の間で活発な議論が交わされていた。

原作者の大鳥も加わってコメントしていることもあり、原作の内容がないがしろになっていることはなさそうだ。

脚本の内容は充実しており、監督の風間も高く評価している。


「しかし、柊くんは何者なんだ?」

山本は翔太の力量に感服した。


神代を映画の主演に推した要因は、アクシススタッフのCMがきっかけである。

翔太がアクシススタッフの社員であり、このCMに関わっていたことを後から知ることになった。

加えて、オーディションでの神代の演技も、翔太の協力によるものだった。


現在、山本が利用しているグループウェアも、翔太がカスタマイズしたものである。

山本は、この映画以外でもこの仕組みを利用したいと考えており、翔太に制作会社のアドバイザーになってくれないかと考えていた。


***


山本の電話が鳴った。翔太からだった。

「――え、本当かい?!――今から?――すぐに向かうよ」

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