第51話 蒼隊員
「情けない」
蒼は己の迂闊さを嘆いた。
相手がどのような目的で出資しているのか把握せずに、神代に和竹を引き合わせた結果、最悪の事態を招いてしまった。
加えて、MoGeからの出資金額に釣られた結果、出演者を含む関係者の信頼とスポンサーからの出資を失ってしまった。
蒼はハラスメントを受けたことを、上司の判断を仰がずに、コンプライアンス部門に直接報告することにした。
蒼自身が受けた被害は軽微なものと扱われ、上司によって握りつぶされる可能性があった。
また、出演タレントの被害を持ち出しても、事を荒立てることを忌避されることが予想された。
MoGeにハラスメントを告発する場合、個人や小さな組織では効果が薄いため、蒼が所属するクオリアから通知することが最も効果的である。
これは、第三者機関に調査や調停を依頼したり、法的措置を取る場合に組織力が必要となるためである。
つまり、和竹に責任を取らせるためには、蒼の双肩にかかっているとも言える。
蒼は、山本だけでなく、自分の行動も翔太に誘導されているように感じた。
社会人経験が自分より少ない翔太が、ここまでできるだろうか?
代わりのスポンサーを調達したり、神代から聞く仕事ぶりを鑑みても、蒼が知っている翔太とは別人ではないかと疑念を抱かされることがある。
蒼はあり得ない可能性を頭から振り払って、自分の仕事に戻った。
***
「本当にありがとうございます。十分な情報を集められたと思います」
蒼は、神代と橘に感謝した。
ここは蒼が勤務する広告代理店、クオリアの会議室だ。
蒼は神代と橘が集めた情報を受け取った。
蒼が取りまとめた情報は、第三者機関によって調査が行われる。
調査結果によっては法的措置も検討されるだろう。
「これは……思っていたよりひどいですね」
蒼は、神代が持ち帰ったICレコーダーの音声を取りまとめながら言った。
この時代にはスマートフォンが存在しないため、会話の録音には専用のデバイスを使うことが一般的だ。
「申し訳ありません。当事務所ではこのような事態に対応できる組織がなくて、柊さんに頼ってしまうことになりました」
「いえいえ、神代さんを危険な目に合わせてしまって」
橘と蒼はお互いに謝罪し合っていた。
「あの……私は大丈夫です!
以前の私だったら駄目になってしまったかもしれませんが、柊……翔太さんと行動するようになってからは、男性が相手でも萎縮しないようになってきました」
神代の発言に蒼は目を丸くした。
弟は、いつの間に人気女優を相手に、ここまで信頼できるような人間に成長したのだろうか。
あの事件からはまだ数年も経っていないのに――
***
証言やメールなど、証拠となる情報を整理している最中に、蒼の電話が鳴った。
「翔太? どうしたの?――うん、神代さんと橘さんもここにいるけど――え? 今から?」
翔太からの電話を終えた蒼は、神代と橘に向かって言った。
「翔太――柊さんから呼び出されました。お二人共、この後お時間取れますか?」
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