第47話 ハラスメント

「ふーん、脚本の修正ね……」

和竹わたけはいかにも興味がなさそうに言った。


ここは携帯電話のゲーム会社であるMoGeの会議室だ。

MoGeは映画『ユニコーン』の主要スポンサー候補の一社であり、和竹は広報の責任者だ。


山本の紹介で、蒼と翔太、そして神代が変装して参加している。

神代は志願して翔太に付いていった形だ。


橘は神代に正体を明かさないことを前提に神代に同行を許可した。

そして、翔太にはを授けていた。


「映画では携帯電話を操作する場面があります、このときに御社の製品を表示できます」

「なるほどねぇ」

翔太の提案に、和竹の反応はそっけなかった。


(金を払うのに、会社の宣伝には興味ないのだろうか?)

翔太は和竹という人物に不審な印象を持った。

ほかの参加者も同様に感じているらしい。


「主演はくまりーがやるんでしょ? ほっといても客は入るんじゃないの?」

和竹は映画の内容には興味ないようだ。


「まぁ、僕の希望を聞いてくれるなら、コレはもっと出せるよ?」

和竹は人差し指と親指で輪を作ったジェスチャーをした。


「それは製作協賛金ということで宜しいでしょうか?」

山本が確認した。

指示語などの曖昧な表現では、後にトラブルの要因になるため、明確にする必要がある。


「そうだね、僕の権限なら、かなりの額をだせるんじゃないかな」

和竹の言い方が、いちいち癪に障った。


「映画やプロモーション活動において、御社の商品をどれだけアピールするか次第ということでしょうか?」

蒼が和竹に確認した。

表情には出していないが、和竹に対して苛立っているように感じた。

(なんだろう……ものすごくやな予感がする)


「わかってないなぁ、僕、くまりーのことが好きなんだよね」

和竹はいやらしく言った。


神代がビクッと反応し、僅かに体を強張らせた。

翔太はハッとした。

和竹は神代の変装には気づいていない。


翔太が和竹を殴りたくなる衝動をこらえながら、神代を手で制しようとした。

狭山のときとは違い利害関係が絡んでいるのため、迂闊な行動はとれない。

霧島プロダクションやクオリアが、MoGe社と取引関係にある可能性がある。


(え?)

神代が翔太の差し出した手をギュっと握ってきた。

必死に堪えているのだろう。

二人の手は机の下にあり、見えないようになっている。


「和竹さんの仰っていることが抽象的でわかりかねます」

山本は感情を抑えるように言った。


「わからないかなー、神代さんと会いたいんだよ。二人きりで!」

(はい、アウトー!)


「ギュギュ」

神代の握る力が強くなった。

(痛い痛い!)

神代も橘と同様に握力が強いようだ。


「神代さんがいい事してくれたら、お金いっぱい出せると思うよー」

「「「「……」」」」一同は絶句した。


(コイツは潰す! 絶対にだ!)

翔太の腹は決まった。


「どうせ、そこの若造が書いた脚本なんか、大したことないんでしょ?

それなら、僕の願いを聞いてくれたほうが効果高いんじゃないの?」

和竹は得意げに言った。


「ギュギュギュギュギュギュギュギュギュ」

(イタタタタタタタタタタタタタタタタタ……)

矛先が翔太に向かったのは幸いだが、翔太の手のHPはゼロに近い。


「柊さん、あんたもかわいい顔しているね。

くまりーの代わりに相手してくれてもいいよ」

和竹は、蒼をいやらしく見つめながら言った。

今度は蒼がビクッと反応した。


(もう決めた、社会復帰できなくなるまで潰す!)

翔太の脳内では、和竹を潰すプランが組み立てられていた。


「山本さん」

翔太は山本に促した。もう交渉の余地はないだろう。

それに、このままだと翔太の手が砕けてしまいそうだ。


「和竹さん、お時間をいただいてありがとうございます。

ご希望に沿うことはできませんので、我々は失礼させていただきます」

山本は、和竹に向かって慇懃に言った。


「おいおい、もう帰っちゃうの?」不満そうに言った和竹を尻目に、四名はその場から退出した。

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