第48話 ハラスメント撲滅隊
「本当に申し訳ない!」
ビルを出た山本と蒼は、神代に向かって深々とお辞儀をした。
「あ、あの……直接なにかされたわけではないので、私は大丈夫です。
それに蒼さんも被害者ですし」
神代は、気丈に振る舞おうとしながら言った。
***
「なるほど、お話はわかりました」
橘は努めて冷静に言った。
ここは映画の制作会社、夢幻の会議室だ。
和竹によるハラスメント行為に対して、緊急でミーティングが行われた。
翔太はすぐに橘に情報を共有し、橘がミーティングに加わることになった。
「MoGeさんにはスポンサーを降りてもらうしかないですね」
山本が決断した。
翔太は山本の決断を評価した。
MoGeから出資は少なくない金額であるが、このまま進めるにはリスクがある。
仮に、和竹が担当から外れても出演者のモチベーションに影響するだろう。
幸いなことに、MoGeとの契約はまだ交わされていなかった。
「弊社もそれで問題ありません。
クレジットにMoGe社が入ることの方が、リスクが高いと判断しました」
蒼が追随した。
情報が外部に漏れた場合に影響があると判断したのだろう。
「目下の課題は代わりになるスポンサーですよね?
私に当てがあるのですが、少々お時間をいただけないでしょうか?」
「「「「!!!」」」」
一同は翔太の発言に驚いた。
「――という感じで、取れるかどうかは五分五分といったところです」
「なるほど、私も伝手を当たってみます。
MoGeの出資がない状態でキャッシュフローが問題ないかも確認しておきます」
翔太の説明に山本が応じた。
「和竹の発言を鑑みると、手慣れているようだったので、ほかにも余罪があるように見えます。
橘さん、所属タレントに同様の事例がないかヒアリングできますか?」
「確認します。加えて、霧島経由でほかの芸能事務所の情報も掴めるかもしれません」
翔太の要請に橘が応えた。
「柊さんには、MoGe社とクオリアさんの間の取引を洗い出してもらうことはできますか?」
「わかりました、早速確認します」
翔太の要請に蒼が応えた。
「神代さんには同じ被害を受けた人がいたら、コンタクトを取っていただきたいのですが……」
翔太は語尾を濁した。
あんなことがあった直後で、酷なお願いをしているかもしれない。
「やります!」
神代は覚悟を決めたような顔つきで言った。
「MoGe社にも調査をお願いすることなりそうですね。
コンプライアンス部門にコンタクトを取れるのは――」
「これは弊社で対応できると思います。社内のコンプライアンス部門に掛け合ってみます」
蒼が対応することになった。
蒼も被害者なので、クオリアのコンプライアンス部門に報告し、MoGeのコンプライアンス部門に訴える流れになる。
***
「しかし、柊くんに私がやるべきことを全部言われてしまったようだね」
ミーティングが一段落した後、山本は苦笑した。
この場に柊は二人いるため、蒼には「柊さん」、翔太には「柊くん」で使い分けることにしたらしい。
これを機に、翔太と山本の距離は縮まったようだ。
「はあ、翔太も仕事でひどい目にあったの?」
蒼は感心しつつも、心配するように言った。
今は姉モードだ。
この時代ではハラスメントに対するリスク管理が徹底されていないので、山本と蒼は、翔太の対応の早さに驚いているようだ。
(あぁ、またやっちまったか……)
「申し訳ありません、出しゃばり過ぎました」
「いや助かったよ、ありがとう」
山本は翔太と握手した。
かくして、セクハラおやじを撃退するためのチームが結成されたのだった。
「それと、橘さんから託されたお守りが役に立ちそうです」
「「「これは――!」」」
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