第43話 くぁwせdrftgyふじこlp
「かなり人が集まっているなぁ」
佃はサイバーフュージョンのISP(インターネットサービスプロバイダー)に関連する部署に在籍している社員だ。
ここはサイバーフュージョン内にあるセミナールームで、パーソナルメディア事業部についての説明会が開催されている。
パーソナルメディア事業部は、社長である上村の肝いりで立ち上がった事業部である。
この事業部に入るためには、社内公募から応募して選考に残る必要がある。
セミナールームは社内で最も大きく、外部の顧客を招くこともある。
この説明会は社内の希望者を募っただけにも関わらず、セミナールームは満席だった。
「パーソナルメディア事業部は、個人が発信するコンテンツを支援する目的で作られました。
従来ではウェブサイトを自分で構築できる人だけが情報配信を行えましたが、当社が提供するプラットフォームを利用することにより、個人でも気軽に情報配信が行えるようになります――」
説明会はCTOの中谷による説明から始まった。
「――手始めに、当事業部ではブログサービスを提供します。
霧島プロダクションが運営している『スターダストブログ』を譲り受けることになりました」
すでに霧島プロダクションとサイバーフュージョンの間で、ブログサービスが譲渡される契約が取り交わされている。
「ざわ……」
会場がざわつき、さながら賭博漫画のワンシーンのようだった。
スターダストブログは、人気タレントが利用しているため、社内でも知名度が高い。
「説明会の告知でもあったように、このことは社外秘なので注意してください」
そう言って、中谷は説明を続けた。
「――ここではブログサービスの説明と、実際にハンズオン形式で触って内容を把握していただきます」
(くまりーもやっているブログだ!)
佃は神代の大ファンである。
出演した映画は全て観ており、ドラマも録画している。
神代に関連したDVDは全て購入している。
「今日は特別講師をお招きしています。
この方についての情報は、絶対に外部に漏らさないようにしてください。
また、危害を加えたり、接触を含めて不快な思いをさせるようなことは絶対にしないでください」
(やけに厳しい注意だな。偉い人でも呼んでるのか?)
佃はおっさんの能書きを聞くくらいなら、帰ろうと思っていた。
会場は緊張に包まれた。
そして、講師が現れた途端――
「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」
佃は思わず奇声を上げてしまった。
「みなさんこんにちは、講師を務めさせていただきます。神代といいます」
神代が笑顔で挨拶をした。
***
会場は騒然とした。
室内の温度は体感的には2°Cくらい上がっていると感じる。
「騒いでいるやつは放り出すぞ!」
森川が一喝すると、参加者が落ち着き、静かになった。
森川はパーソナルメディア事業部を統括する部長である。
(まったく、これだからミーハーは……)
大熊は、隣に座っている同僚の佃を見ながら呆れていた。
会場では神代による説明が始まっていた。
神代の説明は非常にわかりやすく、聴衆の反応をしっかりと確認しながら進めていた。
PCの操作も行っているはずだが、手元を見ずに非常にスムーズに講義を進めていた。
社内でこれほど上手に講義やプレゼンができる社員は見たことがない、と大熊は思った。
隣でうっとりしている佃の気持ちが少し分かってきた。
(まぁ、俺はしらあや命なんだけどな)
大熊は白川の追っかけである。
白川が所属するPawsのCDは全て所有しており、白川が出演している番組は全て録画している。
加えて、コンサートやファンイベントには可能な限り出向いている。
大熊は佃のように、騒いだり取り乱したりしないという自負があった。
追っかけには追っかけなりの矜持があるのだ。
「ここからは、運用の説明になります。ここで特別講師を呼んでいます」
神代の講義が終わったようだ。
「みなさん、静かにしてくださいね――入ってきていいよ」
神代は転校生を呼び出す教師のように言った。
「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」
出てきた人物を見た瞬間、大熊は絶叫した。
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