第38話 プラチナチケット
「野田、これ要るか?」
翔太は封筒を野田に見せた。
ここはアストラルテレコムの社員食堂だ。
翔太と野田はランチをとっている。
今はオーディションの準備をしている時期で、スターズリンクプロジェクトをやると決まった翌日だ。
「ん? なにこれ?」
「ほら、そこのテレビに出ている連中がいるだろ?」
「Pawsな、おまえも知ってんだろ」
「コンサートがあることは知ってるか?」
「もちろん、めちゃくちゃ頑張ったんだけどチケット取れなかったよ。
マジでプラチナくらいの価値はあるんじゃねぇか」
この時代では、人気コンサートのチケットが高額で転売されており、社会問題となっていた。
Pawsは超人気アイドルグループなので、野田の表現は大げさではない。
中でも、「しらあや」と呼ばれている
白川は、霧島プロダクションにおいて、国民的人気女優と言われている神代と双璧をなす存在である。
野田の彼女も、野田と同じくPawsのファンらしい。
翔太は、同性のファンがいることを初めて知った。
彼女は野田以上に熱心なPawsのファンで、野田としては彼女にいいところを見せたかったのだろう。
「いいか、絶対騒ぐなよ……これは、それの関係者席のチケットな」
翔太はイカフライに醤油をかけながら言った。
アジフライ同様、イカフライも醤油で食べるこだわりがある。
「ええええーーーーっ!!!」
「しっー! 静かにしろ!」
悲鳴にも近い声を上げた野田に対して、翔太が黙るように促した。
食堂中の注目がこちらに集まってしまい、大変よろしくない状況だ。
イカフライにかけようとした醤油が隣のキャベツにまでかかってしまった。
「騒ぐなって言っただろ、さっきのはフリじゃないんだからな?」
このコントをやるには一人足りない。
「無茶言うなよ、それ本物なのか?」
「あぁ、開けて見てもいいぞ」
「こ、これは……」
翔太に渡されたチケットを検めた野田の手が震えている。
封筒の中には二枚の関係者席のチケットが入っていた。
チケットの整理番号は二桁であり、ウラ面には関係者と記載されている。
野田の手付きが怪しかったので、翔太は速やかにチケットを回収した。
「俺は興味ないんだけど、お前コレほしいか?」
「えええ!くれるの!!!」
野田は唾を飛ばしながら食いついた。
(うわ、汚っ!)
「騒ぐなら、この話はなかったことにするぞ」
「わわわ、わかった、わかった!」
また食堂の注目が集まってしまったので、脅しておいた。
「で? ほしいの?」
「お前、この流れで俺がいらないって言うと思うか?
パスワード入力するときに、漢字変換するくらいあり得ねぇよ!」
「条件が二つある」
「なんだ、もうなんでも聞くぞ!」
「言質取ったからな」
本当になんでも聞きそうなので、翔太は要求をつり上げようと思ったがやめておいた。
「俺がやる予定だった、定例会議のレポートを代わりにやってほしい」
翔太はオーディションの準備で、グループ会社まで巻き込んでしまうことになったので、今のアストラルテレコムの仕事が回らなくなってきた。
野田に頼んだ仕事は、関係者から集めるデータもあり、作業量がかなり多い。
「ああ、いいぞ!もう一つは?」
野田はあっさりと頷いた。
ここが一番の難関であったが、あまりにもあっさり通過したため、翔太は拍子抜けした。
「このチケットの入手経路については、絶対に詮索しないこと」
「ぐっ……めっちゃ気になるけど……いいよ」
野田は葛藤しつつも、振り絞るように言った。
「そっちかよ!」と、翔太は内心ツッコんだ。
「なくすなよ」と言いながら翔太は野田にチケットを渡した。
野田はキョロキョロと周りを見渡しながらチケットを仕舞った。
さながら、はじめて万引きをした小学生のようである。
翔太は、このチケットを手に入れるための代償を払った。
その代償とは――
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次回は回想シーンです。
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