第23話 心理戦

アストラルテレコムの本社ビル1階のカフェでは、翔太、野田、向かいに神代、橘の4名が話している。

翔太はこっそりと橘にメールした。


柊> 大丈夫なんですか?

橘> 梨花が異性に慣れるための一貫として、許可しました

柊> 今のところは気づいてなさそうです

橘> 万が一バレてしまったら、口止めお願いしますね♥

柊> 善処します


(まぁ、野田一人くらいならなんとかなる……と思うけど、バレたら絶対にロクなことにならないな……)

翔太は内心頭を抱えた。

(田村には後で口止めしとかないと)


「レイカさん、今日はどんなお仕事で?」

野田が切り出した、

いきなり答えにくい質問である。


「広報関連の商談でしたが、上手くまとまりました」

(CMの契約が上手くいったのか)


「ボクもお姉ちゃんの仕事が上手くいって嬉しいよ」

(梨花さんも前向きな案件なんだ)


嘘はついていない、さすがだなと感心した。


「お二人はどんな仕事だったの?」

神代は興味津々で聞いてきた。


「携帯電話のシステムを今の規格に移行するために、旧世代のシステムを移行しているんだけど、そこでトラブルになったので、偉い人に謝ってきたんだよ」

翔太は開示できる範囲で説明した。


「いやー、怒鳴らたときはめっちゃ怖かったわー

でも、柊が徹夜して解決策を見つけたおかげで、ここでのんびりコーヒーが飲めるわけさー」

(コイツ、余計なことを……)


「あ、あの、明日は代休とれるので、そこでぐっすり寝るので大丈夫」

心配してそうな二人を前にして、翔太が慌ててフォローした


「へぇ、柊さんすごいんだねー」

神代は演技で感心してるわけではなさそうだ。


「解決できたのは、野田が手伝ってくれたおかげなんだよ。

こう見えて、野田は優秀なんだよ」

「こう見えて、は余計だよ!」

そう言いながらも野田はテレている。


「くまりーがCMでやってる、このケータイが今の規格で動いてるんだよ」

野田が携帯電話の端末を取り出して言った。

(野田、前!目の前に本人!)―――とは口が裂けても言えない。


「ボクもそれ持ってるよー」

(そりゃそうだ)


「いやー、くまりーいいよねー」

「ねぇ、柊さんもくまりーいいと思う?」

神代がぶっこんできた。

橘は優雅にコーヒーを飲んでいる。

どうやら助けてはくれないようだ。


「それがさー、コイツ、くまりーがCM出てるのをみても、全然興味なさそうにしてるんだよー」

「ゴン!」「あいたっ!」

脛に激痛が走った。


「柊、どした?」

「い、いやテーブルに脛をぶつけて……」


翔太は机の下で携帯電話を操作してメールする。


柊> なにするんだよ

梨花> ふーんだ、べー!


神代はコーヒーと一緒に出されたスプーンをくるくる回している。

(コイツ、とぼけやがって……)


「おまえ本当に、芸能人に興味ないよなぁ」

「だって、画面の向こう側にいる人間に恋慕したってしょーがねーだろうが。

次元が1つ減ってるんだぞ」

「そういう考え方しかできないのかよ」


脛を蹴られた翔太は反撃に出た。

「俺にとっては会える機会がない女優やアイドルよりも、目の前にいる二人のほうが、よっぽど綺麗で魅力的なんだよ」


「カシャーン!」

神代の手からスプーンが落ちた。

「……」

橘はコーヒーカップを持ったまま、フリーズしている。


「こっここここ……この人のこーゆーところずるいよね!」

神代は真っ赤になって翔太を指差しながら言った。


「コイツ、たまーに、天然たらしなところがあるから油断できねーんだよなぁ」

「そうだよねー、野田さんもそう思うよね!」


(ヤレヤレ……)

仕事以上に消耗した翔太だったが、神代が初対面の異性と自然に話せるようになったのが救いだった。


***


柊> 野田と一緒のときに、梨花さんにバッタリ会ってしまった

田村> まじで?!kwsk

柊> 男の子みたいなバージョンの梨花さんだった

  野田は気づいてなかったから

  この件でなにか言われたら話合わせておいて

田村> えー、どうしようかなー?

柊> なにがのぞみだ、いってみろ

田村> こないだのイケメンのお兄さんに奢ってもらったランチがおいしかったなー

柊> 足元見やがって、わかったよ

田村> 詳しくは署で聞かせてもらおうか

柊> なんも悪いことしてねーよ

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