第19話 アイドル
「いやー、疲れたー、どっこいしょ!」
「しょうたん、なんしとるんけ?」
「トスン」と少女が翔太の座っているソファーの隣に座る。
(福井弁?)
しょうたんとは、翔太のことだ、彼女は誰にでもあだ名を付けて呼ぶ。
彼女の名前は
小柄ながらもすらりとした体型で、その細身のフレームはどこかしなやかな猫のような印象を与える。
彼女の目は、大きくぱっちりと開かれ、光を反射する琥珀色の瞳が鋭い輝きを放つ。
翔太はグレイスビルの二階の休憩室で作業をしていた。
ブログのサービスが稼働しているサーバーは三階の事務室にあるが、二階の休憩室からラップトップPCから遠隔で操作している。
事務室はまだ所在ない感じなので、休憩室のお気入りのソファーで作業をすることが多い。
「ブログの投稿やコメントでNGワードを書かない仕組みを実装しているんですよ」
「おー、放送禁止用語やらかしたら、一発退場だもんな」
炎上という表現はまだ一般化していない。
ブログはすぐに効果が出て、かなりの反響を読んだ。
インターネットのニュースでも取り上げられ、巨大掲示板のスレッドでも上位に来るほどだ。
星野のブログは一番アクセス回数が多く、神代は二番手だ。
彼女は所謂『映え』をいち早く取り入れ、ブログで紹介された飲食店は行列ができるようになった。
「それ結構むつかしいのん?」
「日本語は英語のように単語の区切りがないので、まずはそれを区切るんですよ
『すもももももももものうち』って言わたら、人間でもちょっと難しいですよね?」
「おー、なるほどな!わっかりやすいん!新米大統領なんかもできるんけ?」
「先人がツールを作っているので、それを組み込んでいるところです。
さっきのは、『新米』『大統領』になっちゃうかもしれません」
翔太はすぐに事例を思いつく彼女の回転の速さに感嘆した。
同時にアイドルに対して多少の偏見があった自分を内心恥じた。
「業界用語は門外漢なので、橘さんに列挙してもらっています。
意外と使っちゃいけない単語が多いですね、『足切り』とか」
「あー、確かに! まー、れいちんに任せておけばだいじょぶっしょ」
れいちんとは橘のことである。
10代の女性とは話す機会がなく、苦手意識を持っている翔太であるが、星野は距離の詰め方が上手く、気安く話せる相手の一人だ。
会話では、多少おかしな表現を使っているが、計算ずくでやっているのだろうと推測している。
これはブログ上ではあざと可愛く振る舞っていることからも推察される。
誰に対してもタメ口で話しているが、不興を買っていることはなさそうだ。
「しかしなー、しょうたんはれいちんとずっと一緒にそれを作ってるじゃろ?
くまりーが機嫌悪くなっとるぞい」
くまりーに関しては説明不要だろう。
「ん? 何か問題ありますか?」
「オオアリクイじゃい、このニブチンめ!」
星野はぷんすかとしているが、本気で怒ってる様子ではないので放置でいいだろう。
「そういえば、星野さんのブログ、めちゃくちゃ人気ですよ。
ありがとうございます」
「なしてしょうたんがお礼を言うん?」
「これお金もらって作ってるので、成果を出す必要があるんです」
契約上は結果がでなくても問題はないが、それを言うのは野暮だろう。
「それ言うなら、あたしも感謝しとるぞ」
ん?と首を傾げる。
「おまー、仕事では察しがいいくせに、こういうのは気が回らんなぁ。
ブログのおかげで、あたしの株価がストップ高さ。
センターも見えてきたで」
(センターとは?)
聞きかけたけど、地雷の予感がしたので寸前で堪えた、後で二人のどちらかに聞いておこう。
翔太からみると、アイドルグループの少女たちは見分けがつかないが、星野は識別できるようになった。
彼女には感謝しているので応援したいと思っている。
(あれ、急に悪寒が……)
「ということで、しょうたんには褒美をやろう」
「金銭に関するものは契約違反になります」
「違うわこの朴念仁が! なんと、あたしとタメ口でしゃべる権利を進呈しよう」
「ちょっと待ったーーー!」
「ババーン」という効果音と共に神代が現れた。
📄─────
次回、神代 vs 星野
二人の対決の決着はいかに?
─────✍
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます