第15話 反響
「やっぱ、くまりーかわいいなぁ。なんとかお近づきになれないもんかねぇ」
野田はテレビを見つめながらしみじみと語った。
社食のテレビではシャンプーのCMが流れており、神代の美しい黒髪が輝いている。
翔太は出向先の携帯電話キャリア、アストラルテレコムに出社している。
今は翔太と同じタイミングで派遣された同期の野田とともに社食で昼食をとっている。
「野田は彼女いるだろ」
「それはそれ、これはこれだよ」
翔太はアジフライ定食に醤油をかけながら、野田の話を聞いている。
アジフライにはソースではなく、醤油をかけるのが翔太のこだわりだ。
「そういえば、うち会社のCM見たか?
まさか、会社がテレビCM出すなんて……しかもくまりーだよ!くまりー!
眼鏡姿も知的でいいよなぁ」
「俺はテレビがないって言ってるだろ」
CMは予算の都合上、視聴数が少ない早朝や深夜帯のみに放映されていたが、それでもかなりの反響を呼んだ。
テックバンテージのトレーニング申し込みは殺到し、新規受講はキャンセル待ちの状態だ。
「こんなにバンテージのお客さん増えたら、柊にも声がかかるんじゃないか?」
「いやだよ、お前だって本部勤務は嫌だろ?こっちの仕事も忙しいし」
「まぁなぁ、でもくまりーが先生やってるなら全然話は変わってくるぞ」
「くまりーってそんなに騒ぐほどの人なの?さっきのCMに出てた子だよね?」
友達になって連絡先を交換したなんて言ったら刺されそうなので、ここではとぼけておいた。
(言ったところで信じてもらえないだろうな……)
「お前ほんとに知らないんだなぁ。アストラルの端末のCMにも出てるんだぞ」
「え?じゃあこれもそうなのか?」
翔太がアストラルテレコムから支給されている携帯電話の端末を指す。
所謂ガラケーだがこの時代ではケータイなどと呼ばれている。
システムのトラブル時など、緊急時に呼ばれることがあるため、社員でない翔太も端末が支給されている。
野田も同様だ。
「そう、それ、くまりーが使ってるだけでめちゃくちゃ売れるんだよ」
「CMのギャラすごそうだなぁ、羨ましい」
「お前の感想、それだけかよ、つまんねーな」
翔太の日常が戻ってきた――そう思っていた、この時までは。
***
📧─────
梨花> 柊さんのおかげで新しい仕事のお話がきました!
─────📨
翔太の携帯電話にメールが届いた。差出人は神代だ。
万が一に備えて、登録名は神代の本名にしてある。
(仮に神代さんの名前にしてもそれを信じる人はいないだろうけど)
翔太は益体もないことを考えながら文字を入力していく。
キーボード入力は得意だが、テンキー入力は苦手だ。
📧─────
柊> 俺はなにも紹介していないですよ?そもそもできるツテもないですが
梨花> 映画のプロデューサーがCMの私の演技をすごく評価してくれたみたいなんです。
柊> おめでとうございます!梨花さんの実力ですよ
梨花> ちょっと難しい役をやることになりそうで、柊さんに相談にのってもらいたいんです。
─────📨
(ランチ代のツケが回ってきたか……)
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