第14話 友人++

「え?」

翔太は驚いた。この展開は完全に想定外だ。


「ふふふ、そんなに驚かなくても。

これまで私ばかり驚いていたので、ようやくお返しできました」

神代はニッコリと笑って言った。

(よかった、調子を取り戻してくれたようだ)


「実は色々あって、男性が苦手なんですよ。

職業柄、異性に慣れておく必要があるのですが、気軽に話し相手になってくれる男性がいてくれると助かります。

それに……柊さんの状況だと、お友達が多いほうが望ましいのではないかと」


「言いたいことは理解しました、ですが、田村ならともかく、異性と行動するのは梨花さんにとってのリスクが大きすぎるかと。

差し出がましいですが、橘さんに話を通してから決めたほうが――」


「その必要はありません」

ビシッとしたスーツを着込んだイケメンの男性に声をかけられた。

(あれ?声は女性……聞き覚えがあるような……)


「橘さん」

「「えええーー!」」

翔太と田村は驚愕して声を上げたが、はっとして周りを見回した――とりあえず大丈夫そうだ。


「ふふふ、梨花に変装術を仕込んだのは私なんですよ。

この店を指定したのも私です。ここは内緒話がしやすい場所なんです」

イケメンバージョンの橘は不敵に微笑んだ。

(いかん、あまりのイケメンに惚れてしまいそうになる、あれ?惚れても問題ないのか?)


田村もほわぁーっとした表情になっている。

(なんて罪づくりな人だ)


「申し訳ありませんでした」

橘がすごい勢いで翔太に頭を下げた。


「なんのことでしょう?」

「実は梨花が柊さんと友人になりたいという相談を事前に受けておりまして、リスク管理の観点から皆さんの会話の一部始終を聞いておりました」

「あぁ、なるほど」

「柊さんの個人的な事情まで立ち聞きすることになってしまいました。

大変申し訳ありませんでした」

橘は再びお辞儀をした。こちらが恐縮するくらいだ。


「えっと、お詫びしていただいた趣旨は理解しました。

ただ、誤解してほしくないのですが、この件は特に知られて困ることではありません。

書類上の学歴に偽りはないのですが、この事情が勤務先や取引先に知られてしまうと、学力に問題がある懸念を抱かれる可能性があるためです。

お二人に事情を明かしても問題はありませんし、口外しないと信頼しています」

「そう言っていただけると助かります」

(橘さん、まだ気にしているな)


「では、こうしましょう。梨花さん」

「は、はひ!」

神代はかみながら返事した、女優としてあるまじき言動だ。


「梨花さんのことは大変好ましく思っています。

こんな俺でよければ、友人として今後ともよろしくお願いします」

「はい!! よろしくお願いします!」

神代は満面の笑みで答えた。

その笑顔はまるで陽光に照らされた花畑のように輝いていた。


「問題ないでしょうか? 橘さん」

神代は不安げに橘に伺った。

「はい、柊さんなら安心です。恋仲になってしまうと考える必要がありますが」

「ははは、そんな展開はドラマやマンガだけですよ」

翔太の反応に神代は少し不満げな様子だ。

(え? なんで?)


「そして、橘さん」

「はい?」

「俺とも友人になっていただけませんか?

友達相手ならこんな事情を打ち明けるのは普通のことですよ?」

言外に、形式的なものでも構わないニュアンスを入れた。

どう取るかは橘の自由だ。

「はい、ぜひお願いします」


「コイツ……極上の美人と超イケメンを同時に友達にしやがった」

田村が呆れた様子で言った。


「ご迷惑をかけたので、ここは私持ちますよ」

「ありがとう、イケメンのお兄様!」

田村は負債が一掃されて、表情が一変した。

翔太としても誰が払ってくれようが異存はないが、借りを作ってしまうと面倒事がありそうな気がしてきた。

(気の所為……だよな?)


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※ タイトルの++はプログラミングの記法の一つで、値が1加算される処理を指します。

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