第12話 答え合わせ

「はい、なんでしょうか?」

「本番前に私が眼鏡をかけたじゃないですか?

柊さんは理由を察してたみたいだったので」


「なにそれ?」

「本番直前に梨花さんが突然眼鏡をかけて、そのまま撮影に入ったんだよ」


「どゆこと?」

「どんな意図があって梨花さんがこんな行動に出たのか。

俺の見解を聞いてみたいってことでいいですかね?」

「はい、ぜひ聞いてみたいです」


「まず前提として、今回の目的は講師の力量と教材で得られる効果の両方をアピールすることです」

「まぁ、資料にもそんな目的は書いてあったかも」


「その点で、梨花さんの講師の演技は申し分ないものでした。

しかし、このままだと講師が際立って目立ってしまいます」

「梨花美人だからねぇ。

こんな先生がいたら授業そっちのけで顔を見ちゃうだろうな―――あっ!」


「そう、本人を前にして言うのもアレですが。梨花さんの容姿は際立っているので、

同時に教材にも目が向くよう、少しでも講師の印象を薄くするために配慮してくれたというのが俺の見解です」


「なるほどー、でもそれだと問題ないんじゃない?」

「今回のはCMに使われるので、事務所にとっては梨花さんのイメージ戦略にも貢献する必要があるんだよ。

CMって聞かされたのは後からだけど、予算の規模からして可能性はあると思っていた。

うちにとっては清水の舞台から飛び降りるくらいの大盤振る舞いだけど、梨花さん側にとっては小さな仕事なので、事務所としては梨花さんの顔を売らないと採算がとれないんじゃないかと」


「で、梨花はそのリスクを負ってまで、うちを優先してくれたと?」

「きっとそういうことだと思う。合っているでしょうか?」

二人はそろって神代を見る。


「はい、そのとおりです。私の容姿云々は他人から見られての評価と思っていただけるとありがたいのですが……」

田村は池の鯉のように口をパクパクしている。


「はぁー!じゃあなに?二人とも会話無しでそこまで意思疎通してたの?一瞬で?

私からみたら、あんたたちが愛し合ってるようにしか見えないんだけど!」

「―――っ、ゲホっゲホっ」

翔太は飲みかけていたコーヒーでむせてしまった。

(///―――っ)

神代は耳まで真っ赤になっている。


さすがにこのままだと、神代が可愛そうなのでフォローする。

「その場に橘さんもいたけど、ちゃんと事態を把握した上で黙認してくれたんだよ。

別に俺の性別を女性に置き換えてもおかしな話ではないだろ?」

「うーん……それはそうなんだけどさぁ」


「橘さんは、演技の幅が広がるし、ファン層の拡大にも貢献するって社長を説得してくれたのよ」

翔太はあの後のことを心配していたが、杞憂だったらしい。


「へぇ、相変わらずのやり手だねぇ。

でも、橘さんは梨花との付き合いが長いから意図を汲み取ってくれたんだよね。

聞いた感じだと、長年連れ添った夫婦みたいだよ」

(コイツ、やけに食い下がるな)


「そ、そんな、私達はまだ―――」

「まだ!?」

『なんで、フォローしたのに火に油を注ぐんですか』

『ご、こめんなさい、動揺しちゃって』

「ほらー、そういうところだぞ、おまえら!」

二人ははっとしながら目をそらした。

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