第11話 本名

「はい、私の勝ちー。ゴチになります!」

「えええ!柊くん、なんでわかったの!?」

やはり神代だったのか、正体がわかるかどうかを賭けていたらしい。

(神代さん、めちゃくちゃ稼いでいるのに容赦ないな、俺も人のこと言えないけど)


『しーっ!』と神代は唇に人差し指を当てて口止めをするジェスチャーをした。

おまけにウィンクまで飛ばしてきた。

演技とはわかっていても、殺傷力が強すぎるの手加減してほしい。


何とか、田村の納得しそうな理由を考える。

「田村の友人、すごく忙しい、お互い気まずくならない相手――――で検索した」

「なにその検索ワードw」

とりあえず納得してくれたらしい。


「梨花は私の本名です。外ではこれで呼んでください」

「名字をお伺いしても?」


あまり親しくない相手に名前呼びはハードモードすぎるので、イージーモードに変更を要請してみた。

「個人情報を出すことは制限されているんです。なので名前で呼んでください」

ハードモードを強制された。


「ふっふーん、なるほどね」

田村がなにかを察したようだが、神代はこれ以上言わせないように睨みつけた。

「では、梨花さんで問題ないでしょうか」

「はい♪」

外見と同じ役作りをしているのか、ゴキゲンだ。

これを見た田村はニヨニヨとした顔で見ている。やめて差し上げろ。


「梨花さん、完全に別人ですね。全然わからなかったです」

髪はウィッグだろうか?瞳の色まで変わっている。

「今回はフリーターモードのリカちゃんだけど、ほかのバージョンもあるのだよ」

(おい、着せ替え人形の商品名みたいな表現はやめろ)


「身バレしないことが、橘さんと交わした外出条件なんです」

「今回はバレちゃったけどねー。変装した梨花を見破ったのは私が知る限りだと柊くんが初めてだよ」

今回はカンニングしたため、たまたまわかったのだが、口止めされている以上ネタバレはできない。

(神代さんとの秘密がどんどん増えていくな……)


「肌の色まで変えたりで、相当手間がかかっていますよね。

そこまでして会いに来るくらい、田村とは仲がいいんですね」

「あーそれは――――」

田村が言いかけて、神代はキっと目で制した。

野球の投手なら、走者がいても牽制球は必要ないだろう。


神代が畏まった様子で、切り出した。

「あの、今日は柊さんにお聞きしたいことがあって、私から由美に同席をお願いしたんです」

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