第6話 ファーストインパクト
水口は現場に残り、翔太は先に本部に戻ることになった。
納期などのスケジュール確認をし、残件が片付いたら本部に合流して大野に報告する手はずになっている。
翔太は関係者に挨拶して、エレベーターに乗るために階段を下りた。
撮影のフロアは広い場所を使うため、エレベーターが使えず、一旦、階段を使って下の階に降りる必要がある。
「柊さん!」
階上にいる神代から声をかけられた。
なにか言いたいことがあるらしく、「トトトっ」と慌てて階段を下りてくる。
「最後に一言だけお礼を言いたくて――」
しゃべりながら階段を下りる様子は危なっかしいなと思っている矢先に。
「あっ!」
神代がコテンと前のめりになり、慌てて翔太が受けとめる形になった。
「大丈夫ですか?神代さん。」
神代の両手の肘から手首までが翔太の胸に寄りかかっている体勢になり、艶のある黒い髪が首筋を撫でていた。
黒曜石のような瞳はまっすぐに翔太を見つめており、ブラックホールのように引き込まれそうだ。
役柄上、香水はつけていないと思われるが、神代から漂う香りが翔太の心を惑わせる。
(これ以上はマズイ)
「ありがとうございます、助かりました。」
神代は上目遣いで翔太を見ながら言った。
その仕草はあどけなく、庇護欲をかきたてる。
必要以上に長く接触してしまった……セクハラ + 取引先 + 芸能人とのスキャンダル――数え役満の完成である。
社会的な死が走馬灯のようによぎって周りを見渡したが、幸いなことに誰にも見られていないようだ。
「ふふふっ大丈夫ですよ♪」
神代は周りの状況を理解しているかのように言った。
心なしか、してやったりといった表情をしているようにも見えた。
(まさかな……)
「えっと、今日のお仕事は柊さんのおかげで大変楽しくさせていただきました。
本番前の私の行動にも目をつぶっていただいて、本当にありがとうございます」
「ナンノコトダカワカラナイデスガ」
いつもなら、受け流せる翔太であるが、今は動揺を隠せない。
「なんでカタコトなんですかw」
クスクスっと年相応のあどけさを見せるように笑う。これが素なのだろうか。
翔太はなんとか持ち直して返答する。
「こちらこそ、弊社のことを色々と気遣っていただきありがとうございます。
演技のことは素人ですが、私も貴重な経験をさせていただきました。
この後のお仕事もがんばってくださいね。」
「はい、ではまた。」
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