第4話 秘密兵器
ここからは水口も加わり、演技指導が行われることとなった。
本職の講師が入ってもらうことで翔太の心理的な負担はかなり軽減された。
リハーサル時から演技内容を変えたことを報告すると、水口は少し驚いたものの咎められることはなかった。
(普通に考えると、神代さんは役不足で、俺は力不足なんだろうけど、何か裏があるんだろうな……)
色々と思うところはあったが、追求するのは後回しだ。
「水口主任、アレは持っていますか?」
「もちろん、いつも持ち歩いているわ――どうぞ」
「本番で神代さんに使ってもらおうと思っていますが、問題ないですか?」
「いいと思うわ、神代さんなら上手く使ってくれそうだし」
アレが何なのかを察したのか、水口は指にはめる形状のデバイスを取り出した。
翔太が説明を始めた。
「これはフィンガーフローと言って、コンピュータを無線で操作するデバイスです。
主にプレゼン資料のページを進めたり戻したりできますが、加えて、マクロ機能といってよく使う操作を事前に登録して呼び出したりもできます」
「へぇー、すごいですね!」
神代は興味深そうに見ている。
「操作感はキーボードやマウスには及ばないですが、相手の反応を見ながら操作を行えるので、プレゼンテーションや講義で使う場合に便利なんですよ」
水口が補足する。
「ちなみに、このフィンガーフローはここにいる柊が企画と設計をしてメーカーに作ってもらった商品なんです。特許も取っているんですよ」
水口がドヤ顔になって説明する、彼女は役務上、表情を崩すことはめったにないので、翔太もこれには驚いた。
これを機会に会社のアピールもしておきたいのだろう。
「えーーー!そうなんですか!」
神代が驚いた表情で翔太を見る。
(神代さん、驚いてばかりだな、演技以外では感情を隠さないタイプなのか?)
「正直、アクシススタッフさんはこういう商品を作ったりしないと思っていましたので、びっくりしました」
「神代さん、よくご存知ですね。
弊社は人材派遣がメインの業務ですから、こういったハードウェアの商品開発は行わないのですが、柊がうまく立ち回りまして――」
「そ、その話はここまでにしておきましょう。神代さんもご多忙ですし」
翔太は話を打ち切った。
これ以上は恥ずかし過ぎて耐えられないし、これができたことには誰にも言えない事情がある。
『柊さんはすごく優秀なんですね。なんとなくそうじゃないかなとは思っていましたケド……』
続けて話を聞きたそうにブツブツ小声でつぶやく神代をスルーしつつ、フィンガーフローを使った演技指導が始まった。
***
神代は渡されたフィンガーフローを上手く使いこなしていた。
あらかじめ水口が登録していたマクロ機能も上手く使えている。
橘は神代のことを器用だと言っていたが、演技だけではないらしい。
(こっちの業界で働いても活躍できそうだな……ただそうなった場合は周りが大変そうだけど)
水口のアドバイスも加わったことで、リハーサルから差し替えた部分も問題なくできそうだ。
「柊くん、私はこれで十分だと思うけど、どうかな?」
「はい、そうですね……完璧だと思います。神代さんありがとうございます」
神代は翔太が一瞬だけ言いよどんだことを見逃さなかった。
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