自動販売機

 四半世紀ほど前の出来事です。


 19時過ぎに仕事を終えて、所用で富山市内へ自動車を運転して出かけました。

 用事を済ませ、帰宅するために海沿いの道を走らせていると喉が渇いてきたので、自動販売機に立ち寄る事にしました。

 道沿いに建つ整備工場の前に設置された自動販売機は、周囲が闇に包まれていたので一際輝いて見えました。

 缶ジュースを購入し、運転席のドアを開けて乗り込もうとした時の事です。

「タンッ」

 工場にも周囲にも誰も居ないのに、何かが踏み込んだような音が聞こえました。

 振り返った私の目に入ったのは、背の低い太った50歳前後の男が私を睨みつけて、バットを大上段に振り上げている姿でした。


 その距離は3メートルは離れていなかったと思います。

 目が合ったまま、互いに動きが止まります。

 やがて、バットを下ろした男は舌打ちを一つして、ゆっくりと工場側へと歩いていきました。

 私は慌てて車に乗り込み走り去る直前にミラー越しに見た、ブレーキランプに照らさし出される男の忌々しそうな、悔しそうな表情は一生忘れることは無いでしょう。

 


 

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