14
タクシードライバーに夫たちの事がばれない様に少しは慣れた場所にタクシーを止めてもらって、私はGPSアプリの画面を確認しながら目的地に向かう。
そこは山の中だったが、まだ麓に近く、道路にはミニワゴンが一台止まっていた。
それは森の奥を照らすようにヘッドライトがつけたままにされていた。
そこから、シャベルの音と誰かの話す声が聞こえた。
必死なのか近づいてきた私には気が付いていない。
「もっと深く掘りなさいよ。あんたが悪いんでしょ? まさか、本当に殺すなんて思わなかったわよ」
それは女の声だった。
若い女なんかじゃない。
私とそう歳の変わらない女の声だ。
「だってあの時はそうするしかなかったんだ。
「あんたの娘があんなところまでついて行ったのが馬鹿なのよ。あんな人気のない場所に連れ込まれたらやられることなんて普通わかるでしょう!?」
2人はあの時の話をしている。
おそらく夫はあの時工藤を追いかけていただけで、殺す気なんてなかったのだろう。
目の前で娘が今まさに襲われそうになっているから、咄嗟に助けてしまったんだ。
そもそも、この隣にいる女が誰なのかわからない。
彼女は何者で夫とはどういう関係なんだろうか。
私はそう疑問を感じながら、静かに様子をうかがっていた。
「あたしが三滝に頼んで情報を仕入れて来たっていうのにあんた、全然使えないんだもの。
「まさか、和までこいつに手を付けられてるとは思わなかったんだよ。三滝さんに証拠写真を見せられて、どうしていいかわからなかった。しかも、目の前で襲われるのを見たら、咄嗟に体が動いていたんだよ。やっぱり実の娘が男に襲われているところなんて見たくないもんだな……」
話が段々見えてきたが、それ以上にショックで頭がまともに動いていなかった。
夫は娘を守るために店に通っていたわけではないのだ。
この女の命令で動いていたのだ。
心のどこかで夫は娘を心配してくれていたものだと信じていた。
最後はさすがに娘の為に動いたのだろうが、それまではそうではなかったということだ。
私は再び、腸が煮えくり返りそうなほどの怒りを感じた。
「まあ、いいわよ。殺すとまで思ってなかったけど、
ほらと夫は女に壊れた携帯を見せた。
携帯情報から場所を特定されないように鈍器か何かで壊したのだろう。
そこには多くの女の子のリベンジポルノの記録が残っているはずだ。
女はどんな目的があって、工藤に復讐をしようとしたのかはわからない。
しかし、夫は和が工藤と付き合う前からこの女に協力したいたことになる。
それはなぜ?
わからないことばかりで私は頭がおかしくなりそうだった。
それなりの大きさの穴を2人で開けて、そこにビニールシートに包まれた工藤の遺体を放り投げた。
そしてそのまま上から土をかぶせる。
そんなんじゃだめだと私は確信している。
この2人は甘かったのだ。
夜中によく見えない状況だったから、遺体が綺麗に埋まっているのを確認出来ておらず、シートがはみ出ていることに気が付かない。
そして、掘り返した土が思いのほか目立つということも、道路から近すぎて見つかりやすいということも。
だから簡単に見つかったのだと確信した。
「そろそろ行きましょう。こんな場所に長居してたら誰かに気づかれるわ。それとあなたのその服、どこかに捨てて帰らないとダメよ? 返り血もついているし、泥だらけだわ」
ほんとだと言って夫は自分の姿を確認する。
そうだ。
夫はこういう所に鈍い男だ。
服装が乱れているとか、返り血がかかっているから処分するとか知恵の回るタイプではない。
全部、この女の指示だったということはわかる。
夫はこの女のいいなりだ。
どんな弱みでも握られているのかと思った。
その時、ふんわり匂ってくるあの香水の匂い。
あの女のものだと知った。
「あたしがここまで協力したんだからわかるわよね。あなたもちゃんと約束は守ってよ?」
女は車に乗り込む前に言った。
約束とは何だろう。
そう思いながら、車の方へ近づいて話を聞いた。
「本当にしないとダメか? 俺とあいつはもうとっくに冷めてる。それはお前も知ってるだろう? 和もいることだし、そこまでするのは……」
「じゃあ、万由里の事はどうでもいいっていうの? あの子はあなたの子なのよ? あの娘の事は母親の方の両親に預けられるって言ってたじゃない!?」
彼女はそう叫んで、扉を閉めた。
そして、2人を乗せた車は通りすぎていく。
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