エビ
青いひつじ
第1話
見上げると、ほとんど白に見えるほど晴れ渡った空の下。
私たちは、釣りをしていた。
「いや〜今日も暑いなぁ〜」
「今日は何が釣れますかね」
今日はイワナとヤマメを狙おうと、我々は川の上流までやってきた。
ゴツゴツした岩を通って、水が勢いよく下っていく。
私は、魚のいそうな場所を目掛け、ルアーを投げた。力強く竿先を跳ね上げてルアーを動かしていると早速、一匹の魚が引っかかった。
「お〜、早いですね。こりゃイワナですかね」
「あぁ、しかし小さいな。返すか」
川に戻そうとした時、針に謎の生き物が引っかかっていた。
体は殻で覆われ固く、触ろうとすると、たくさん生えた足をバタバタと動かし抵抗した。
「なんだこの生き物は」
「なんですか?」
Nは針からその生き物を外し、指で掴むと、よく観察した。
「は!Tさん、これはもしや、エビではないですか?!」
「ほぉ、河川に生息していると聞いたことがあるが、こんな上流にまでいるのか!昔誰かがゴキブリが進化した生き物だと言っていたな!」
「いや〜ラッキーでしたね。しかし、きっとその噂は嘘ですよ。見てください、なんとも可愛らしい生き物です。ゴキブリのゴのじもありませんよ」
「可愛いかぁ。よくみると気味が悪いぞ。手か足かよく分からんがたくさん生えてるし、色もバラバラだ。骨はあるのか?」
「骨は無いと聞いたことがあります」
「そうか。どんな味がするんだろうな、、、。食べられるのか」
「はい」
Nは、「食べてみましょう」と言わんばかりの目で私を見てきた。こういう場合は、年下が率先して食べるものではとも思ったが、一応年上である私は、渋々そいつの背中部分に齧り付いた。
ガリっと音がした。殻は食べても大丈夫なのだろうか。
そしてゆっくりと慎重に、殻と身をすりつぶし味を確かめた。
「、、、味は、どうですか」
「、、うん、、、美味い!食感はプリプリしていて、ほんのり甘い。なんだこの不思議な食べ物は」
「本当ですか?!それじゃあ、もっと釣って持って帰って調理をしてみましょう!」
その日私たちは、魚ではなく、日が暮れるまでエビを釣り続け、バケツの中はエビでいっぱいになった。
殻を剥いて、手足をもぎ取り、頭と尻尾ももぎ取る。
調理してみると、エビはいろんな料理によく馴染んだ。もちろん、そのまま食べても美味しかった。
揚げてもよし、ソースに絡めてもよし、塩焼きしてもよし、何をしても美味い。
こんな完璧な食材は他にない。
調べてみると、エビには色んな種類があることが分かった。テナガエビ、サクラエビ、クルマエビと、その種類は何千にもなるという。
いつか、全部のエビを食べてみたいものだ。
私の最近のお気に入りは、エビの唐揚げである。若い者たちは、エビフライと呼んでいるらしい。カリッと頭から齧り付き、口に広がる香ばしさは、なんとも言えない幸せである。
刺身のエビ、塩焼き、寿司。
私は、エビであればなんでも好きだ。
殻を剥くのがめんどくさいと言う人間がいたが、信じられなかった。殻を剥いて食べるからおいしいんじゃないか。
今日の晩酌のお供は、エビの頭の唐揚げである。ビール片手に、なんて幸せな夏の夜なのだろう。
テレビでは、最近世界中で起きている、謎の失踪事件のニュースが流れていた。
別の星にて。
「しかし皮が剥きにくいな。骨も多いし」
「おっ、腕は簡単にもぎ取れるぞ」
「次は塩焼きじゃなくて、煮込んでみるか。少しは骨が柔らかくなるだろう」
「これ、頭は食べれるのか?」
「苦いそうだが、栄養があるらしい」
「うぇぇ。変な汁が出てきた」
「唐揚げにしても美味いかもな」
「いやぁ、しかし、初めて食べたな。これはなんという生き物だい」
「これは、地球という場所に生息する"ニンゲン"という生き物らしいです」
「これは、"ニホンジン"という種類です。他にもたくさん種類があるそうですよ」
「他のもたべてみたいな」
「うん。悪くない。また、釣りに行くとしよう」
「実に楽しい宴だ」
エビ 青いひつじ @zue23
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