第24話 別れの時
意識を失ってから一夜明けた日の昼。
目を覚ました俺は、視線の先の見慣れない天井を見上げ現状を把握するため、ゆったりと身体を起こす。
ぼーっとした意識の中、目をこすり室内を見渡してみればそこは前日も寝泊まりした赤ずきんのおじいさんの部屋だった。
一瞬 ? マークが浮かんだが、直ぐに昨日ルナと話した後に気絶したのを思い出し二人に運んでもらったのだと理解した。
「──あら? 起きたのね」
ガチャリと音を立て扉を開けたルナが部屋に入ってきた。
いつも通りの黒いドレス服に身を包んだルナはこちらに近づいてくると、近くに備え付けてある木製椅子をベットの隣に置き、静かに腰を下ろした。
その表情はスッキリとしており、昨日までの弱々しさは一切感じなかった……けどそれは表面上そう見えるというだけの話できっとルナの中で問題が解決したわけではないのだろう。
「……お、おはようユウト」
「ああ、おはよう……そうだ気絶した俺を運んでくれてありがとうな」
「別にお礼を言われるようなことじゃないわ。それよりも調子はどう? どこか痛いところとかはないかしら?」
「あー痛いとこは……ないな。疲労感はすごいけど動けないほどじゃないな」
ベットの上で上半身だけではあるが実際に身体を動かして問題ないことを示すと、ルナは安心したようにほっと息をついた。
だがここで一つ疑問が湧いた、上空で赤ずきんを庇った時にウルフから喰らった傷の痛みを背中に感じないのだ。一日寝たからといって治るような傷じゃないだけに気になってしまい、ルナなら何か知っているのではと思い聞いてみることにした。
「なあルナ、俺の背中って今どうなってる?」
「どうって……綺麗な背中ね」
「⁉ 傷とか跡はないのか?」
「ないわね、というか背中に負ってた傷ならユウトが世界を再生している時に一緒に治ってたわよ」
「まじかよ……どういうことだ、煌星剣に傷を癒すような力はないはずなんだが」
「そうなの? てっきり私は星剣の力だと思ってたのだけど……どうしても気になるようなら天界に帰った時に神様に聞いてみましょ、きっと何か知っているはずだし」
「それもそうだな」
怪我が悪化したわけでもないしあまり深く考える必要はないか、と内心で呟いているとふとルナは思い出しかのように『あっ』と声を上げた。
「起きたばかりで悪いのだけど天界に帰る準備をしてもらえないかしら?」
「随分と急な話だな……どうしてか理由を聞いてもいいか?」
「そうね、今日の朝のことなんだけど神様から連絡があったのよ。今回の報告をしてほしいのと神様から直接話したいことがあるらしくて、私も詳しい内容は知らないのよ」
「……なるほどな」
「私もさすがに急すぎると思ったから神様と交渉したのだけど……今日の夜までしか待ってもらえなかったの、力が及ばなくてごめんなさい」
「いやいいよ、ルナが謝ることじゃない。夜まで時間があるなら赤ずきんたちにもちゃんと挨拶できるしな、それに……なんでもない」
それに天界に帰るも帰らないも俺たち次第だしな、と口に出しはしなかった……そんなことを言ってもどうせ俺たちは天界に帰る判断をするからだ。
まあ、この世界でゆっくり出来ないのは残念だけどな。
「よし、仕方ないし帰るか」
腕を伸ばし気持ちを切り替えると、俺はベットから下りルナと共に部屋を後にした。
▲▼▲▼▲▼▲▼
おばあさんと赤ずきんに声を掛け家の前へと場所を移した俺たちは、今回の件をかいつまんで説明した後にお世話になった礼を伝えた。
「──もう行ってしまうのね、命を助けてもらったのに何も返せなくて悪いねえ」
「お気になさらないでくださいお婆様。こちらの方こそお世話になったお礼を返せず申し訳なく思っていますからお互い様と言うことで」
「そうかい、そう言っていただけると救われるよ」
ほんわかな笑顔を浮かべているおばあさんだが特に身体に異常はないらしく元気なものだった。
そんなこんなで例の如くお姫様モードのルナに進行を任せながら一通り失礼のない挨拶を無事に終えたわけだが……ここに至るまでまだ一言も発していない人物が一人だけおり自然と視線が集まる中、赤ずきんは口を開いた。
「……お兄ちゃんと二人でお話してもいい?」
赤い頭巾に隠れているせいで表情は分からず淡々とした口調なのもあって今の赤ずきんがどういう心境なのかを推測することは出来なかった。
「ルナとおばあさんには悪いけど少しだけ待っててもらってもいいか?」
俺の言葉に二人が頷いてくれたのを確認してから、赤ずきんに連れられるまま俺たち二人は家の裏側まで移動した。
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