第23話 再生

 「……どうして、どうして出来ないの……っお願いだから応えてよ」


 神様から星剣について教えてもらっている間も、ルナは地面に突き刺した星剣を両手で握り必死に奮闘していたがルナの想いとは裏腹に星剣が応えてくれることはなかった。


 「どうして応えてくれないの、私が負けたから? 私が逃げたから? どうしたらいいの……私の選択は間違ってたのお兄様」


 そして先ほどからとうとう動くことなく俯きブツブツと独り言を口にしているルナの姿は控えめに言っても限界だった。

 今のルナを見ていると確かに心が不安定になっているように見える。それでも星剣が応えてくれないことによる焦りから神経質になっているだけの気がして、とてもじゃないがルナの心に問題があるなんて信じられなかった。


 けど、今に至るまでルナが星剣の力を引き出せていないのも事実だ……まあ、心に問題を抱えているいないのどちらにせよ、ここからは俺の出番だ。


 「……ルナ、交代だ」


 地面へと座り込み項垂れているルナの背後で、俺はそっと呟くように声を掛ける。

 真っ黒な地面を見つめたままのルナはしばらく何も答えなかったが、やがて絞り出すように声を出し始めた。


 「……私に失望したのよねユウト? そうよね当然だわ、ずっとずっと何の役にも立ってないものね、頼って任せてもらったのに私は期待を裏切ってばかり見限られたって文句は言えないわ」

 「逆に聞くけど、ルナは一度でも俺に失望したか?」


 俺の返答にようやく顔を上げたルナは潤んだ黄色の瞳を真っ直ぐと向ける。


 「してない、ユウトに失望なんてするはずないわ。魔法が使えなくても身体がボロボロになっても自分のことよりも他人のために頑張れるユウトを敬うこそすれ失望するなんてあり得ないわ」

 「俺も同じだよ。どんなことがあってもルナに失望しないし見限ったりもしない。勿論この先何があってもだ……それに前に言ったことを忘れたのか? 互いに足りない部分は補い合う、それが仲間ってもんだろ」

 「っ…………そうよね。私は一人じゃない信頼できる仲間がいるものね。後を頼んでもいいユウト?」


 弱々しい声でこちらを見るルナに俺は口角を上げ一言こう言った。


 「任せとけ」


 抱き抱えたままだった赤ずきんをルナに任せ、星剣を右手に握る。

 目を閉じ星剣へと意識を集中させる──神様は言った願えば星剣は応えてくれると、心のままに信じるままに己の気持を星剣に宿せと。


 ……俺の願いってなんだ? 崩壊している世界を元に戻すことだ。

 ……何故そうしたい? あんなに悲しくて辛い思いを繰り返したくないから。

 ……俺は善人か? 違う、俺はいい奴じゃない理不尽が許せないだけのどこにでもいる普通の人間だ。

 ……両親の仇を復讐をしたいか? 確かに最初は俺の世界を崩壊させた奴のことが殺したいほど憎くて許せなかった。


 けど今は、ルナに出会って赤ずきんに出会って一人じゃないことを知ったおかげで復讐をしたいとはちっとも思わない。

 まあだからって許したわけじゃないし一生許すことはないんだけど、それに敵を討ったら死んで両親に会った時に胸を張れなくなるし、俺が俺でなくなる気がして嫌なんだ……そう、だから後悔しないように暗く寂しい理不尽な絶望を祓うために。


 「──力を貸してくれ星剣」


 その瞬間、眩いほどの光が星剣から発せられたのを感じ瞼を上げる。

 銀色だった剣身が白色へと変わり始め、それに伴い星剣の煌めきが増し暖かな光が辺りを包み込むように溢れ出した。

 が、それも数秒のことで星剣から溢れ出した光は剣身へと徐々に収束していき完全に収まると光は極小の星屑となり真っ白になった剣身を纏い煌めいており、少し前とは別物の神々しさを放つ姿へと進化を遂げた。


 「……これが煌星剣こうせいけんか。星剣の時とは明らかに内包してる力が桁違いだな、もう少しその綺麗な剣身を眺めてたいけど時間がないんでな。早速で悪いがお前の力を見せてくれよ」


 新たな力を得て高揚した気持ちを隠すことができず、俺は口角が上がったまま煌星剣を真っ暗な地面へと突き刺し叫ぶ。


 「ホワイトホールッ‼」


 驚愕の一言だった……煌星剣を地面に突き刺した途端、剣身が光り輝きだすと闇に呑まれ黒く染まった地面に光の亀裂が走り、そこから剥がれるように失ったはずの土が草木が姿を現しどんどんと伝染し広がっていく。

 数秒と経たないうちに世界は次々と色彩を生命を取り戻していき、闇によって奪われた全てのものを何事もなかったかのように元の本来の状態へと再生していった。


 「おばあちゃん⁉」


 そんな目の前に広がる異様な光景に俺は言葉を失い、その場から動けずただただ呆然と立ち尽くしていたが、背後から赤ずきんの大声が聞こえ我に返り振り向くと。

 視線の先には命を落としたはずのおばあさんが木の根元で横たわっており、ルナの背中から降り勢いよく飛び出した赤ずきんに続き俺とルナも足を運ぶ。


 「──生きてる、おばあちゃん生きてるよぉ」


 おばあさんの胸の中に顔を埋め涙を流す赤ずきん。

 それを眺めていると不意にルナが口を開いた。


 「あの、私の代わりに……ありがとうユウト」

 「おう」

 「……何も聞かないの?」

 「何のことだ」

 「ユウトも気づいてたでしょ私がおかしいって……気にならないの?」

 「ルナはそれを俺に話したいのか?」


 俺の問いに小さく首を横に降ったルナは申し訳なそうに眉尻を下げ、黄色の瞳を揺らしながらぽつりと声を零す。


 「……でも、いつかちゃんと話すから」

 「ん、じゃあ待ってるよルナが話してくれる時まで」


 そう言って笑顔を向けると、ルナは泣きそうな顔で一言『ありがとう』と口にした。

 直後、心地よい夜風が吹き抜け森の木々が葉擦れる音が耳に入り、ようやく終わったんだと自覚した途端に張り詰めていた緊張が途切れ急速に身体から力が抜けていき次第に意識の方も遠のいていった。

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