第16話 戦闘訓練

 落ち着きを取り戻してから数分が経過した頃、赤ずきんもルナも俺のことを茶化すようなこともなく、場所を家の外に置かれているテーブルへと移し話を次の段階に進めようとしていた。


 「それじゃ一旦ひと段落したことだし情報の整理をしましょうか。それでユウトは魔力コントロールを使えるようになったのかしら?」


 対面に座るルナは赤ずきんが用意してくれた紅茶を上品に一口啜り黄色の瞳を俺へと向ける。


 「ああうん、魔法は相変わらず使えないけど魔力コントロールは赤ずきんのおかげで使えるようになったよ。ルナがイメージが大事だって言ってた意味が今ならよく分かるよ」

 「ええ、そうね。魔力コントロールを習得したなら理解できるでしょうけど、これを人に教えるってことがどれだけ大変なのかってことが……人によって魔力の感じ方や考え方は違うし自分が出来たからってその方法が他の人に合ってるかと言われれば違うし。結局のところ魔力コントロールに共通しているイメージ力が大事としか言えないのよね。それなのに習得してから間もないのに瞬時にユウトに合ったやり方を見つけた赤ずきんは異常よ、どうしてあんな方法を思いついたの?」


 話しながら肩肘を突き俺から赤ずきんへと視線を移すルナ。どことなく緊迫感を孕でおり直接目を合わせていないにも関わらず口の中が乾いていく。

 ちらりと隣の赤ずきんを見ると特に気にしている様子はなく紅茶と一緒にもって来ていたクッキーをもぐもぐと食べていた。


 「ちょっと聞いているのかしら?」

 「ちゃんと聞いてるよ。わたしが考えたやり方が気になるんでしょ? いいよ教えてあげる。って言ってもおばあちゃんのおかげなんだけどね。昔から魔法についてはおじいちゃんよりもおばあちゃんの方が詳しかったからよく教えてもらってたんだ。それでわたしが魔法を使えるようになった時のやり方が今のお兄ちゃんにピッタリかなって思っただけだよ。だから本当はわたしじゃなくておばあちゃんが考えたやり方なんだ」

 「……はあ、なんか納得したわ。にしてもあのお婆様に教えてもらっていたのなら魔力コントロールを習得していても不思議ではないのにどうして教えてもらっていないのかしら」

 「えっと確か、心が未熟だからっておばあちゃんは言ってた気がする」

 「身の丈に合わない力を得ても身を滅ぼすだけってことね。まあ、いいわ赤ずきんに聞きたかったことは全て解決したし、話を次に進めましょうか……コホン、予想以上に早く魔力コントロールを習得できたから次は近接戦闘の訓練に移ることにするわ」

 「戦闘訓練?」


 鸚鵡返しに聞き返す、とルナは指をくるくると回しながら説明してくれる。


 「そ、戦闘訓練。魔法が使えるのならそっちの訓練でも良かったけどまだ使えないみたいだしユウトには近接戦の訓練をしてもらうわ。と言っても私が教えてあげられるのは初歩程度だけどね」

 「近接戦か……それは星剣を使う練習ってことか?」

 「まあ、間違ってはいないわ。実際は剣術と体術を教えるのだけど……恥ずかしい話、私自身まだまだ未熟だからあまり期待はしないようにね。それに最初は魔力コントロールによる身体能力の変化に身体と意識を慣らさないといけないから大変よ」

 「身体と意識……そうか、確かにな」


 少し遅れて理解が及ぶ……魔力コントロールが出来るようになったとはいえ、俺はまだ一度もその状態を経験してはいない。

 それに赤ずきんの飛び跳ねる姿を見て思ったが今まで通りの感覚で動くことが難しいだろうことは容易に想像できる。


 「ここから本格的に修行が始まるのか、なんかワクワクが止まらないな」

 「そんなに期待されると困るのだけれど……あっ、赤ずきんに関しては特に教えるようなことはないけれど別に構わないわよね?」

 「うん全然大丈夫だよ。わたしはテキトーに魔法の鍛錬してるから」


 話もまとまり早速修行に移ろうと席を立ったタイミングで、俺のお腹からぐぅ〜と音が鳴った。

 誰からともなくちょっとした笑いが起こった後、ちょうどよくご飯ができたとの報せがあり俺たち三人は朝食をとるために家の中へと戻ることにした。

      ▲▼▲▼▲▼▲▼


 おばあさんの作ってくれた目玉焼きとベーコンらしき肉を主体とした(めちゃくちゃ美味しかった)朝食を済ませ、ルナの指導のもと修行を開始していた。

 最初の一時間ぐらいは魔力コントロール状態の中で歩いたり走ったり跳んでみたりと身体と意識を慣らす鍛錬を重点的に行った。


 これが思っていたよりも難しく意のままに動けるまでに想定以上に時間を費やすハメになったが、ルナからは筋がいいと褒められたが開始三分ぐらいで自由に動き回る赤ずきんと比べたらとても筋がいいとは思えなかった。


 ともかく──現在は剣術と体術の基礎を済ませ、ルナと実戦さながらの戦闘訓練を魔力が切れるまで延々と繰り返している。


 「……ハアッ……ハアッ……ハアッ、参った」


 眼前にレイピアの形をした星剣を突きつけられた俺は、両手を上げて降参の意を示すとその場にバタリと座り込む。


 「当然だけどまた私の勝ちね……にしてもユウトの成長速度には驚かされるわ。もう何戦かすれば結果は逆になっていそうね」


 星剣をしまい俺の対面へと腰を下ろすルナに呼吸を整えてから口を開く。


 「ははっ、冗談はやめてくれよたった今、手も足も出ずに負けて息も上がってる俺が息切れ一つしてないルナに勝てるわけないだろ」

 「あら、別に冗談なんかじゃないわよ。始めた当初こそ素人同然の動きしか出来なかったはずなのに、時間が経てば経つほどに教えてもいない動きや技を次々と繰り出してくるおかげでここ何戦かはヒヤッとする瞬間が何度もあったわ。剣を交えて分かったけどユウトは戦闘センスがずば抜けているのよ、それでもユウトが私に勝てないのは圧倒的に経験が足りていないからね。あと、私が息を切らしていないのは単純に体力の総量が違うからよ」

 「それって結局、持久戦に持ち込まれたら俺に勝ち目がないってことじゃないか?」

 「弱点が見つかって良かったじゃない。それじゃもう一本いくわよ」

 「ああ、よろしく頼む」


 休憩もほどほどに再開しようとした矢先、辺り一帯に悲鳴が響き渡った。

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