第15話 修行

 翌朝。

 早速稽古をつけてもらえることになり、俺は朝の澄み切った空気を吸いながら準備運動をし身体をほぐしていた。

 その隣でワンテンポ遅れながらも一生懸命に俺の真似をしている赤ずきんが不意に口を開く。


 「ねえお兄ちゃん、ほっぺが腫れてるけどどうしたの?」

 「いやーなんでだろうな、寝相でも悪かったのかな、あはは」


 もちろん今言ったことは嘘である。本当の理由は目が覚めた時になぜかルナに抱きつかれ身動きが取れず、その後目を覚ましたルナに思い切りビンタを喰らわされたからだ。

 その理不尽な制裁を加えたルナへちらりと視線を向けると『知らないわよ』とでも言いたげな様子で顔を逸らした。


 「えーなんか怪しいなあー。本当に寝相が悪かったのかな? う〜んよく見れば手形のようにも見える──」


 至近距離でまじまじと顔を覗き込みどんどんと正解に近づいてく赤ずきんに危機感を覚えていると、ルナは唐突に咳払いを挟み俺と赤ずきんの間へ割り込んでくる。


 「んんっ、ユウトの寝相のことなんてどうだっていいのよそれよりも、どうして呼んだ覚えのない赤ずきんがここにいるのかしら?」

 「ふふん、そんなの朝からコソコソと二人で外に行くところを発見したからだよ。抜け駆けなんて許さないもん」

 「抜け駆けって……はあ、あのね私とユウトは遊ぼうとしているわけじゃないのよ。これからこの世界を守るために必要な力を身につけるための修行をするのよ。だから居てもいいけど邪魔だけはしないでよね」

 「修行……わたしも一緒にやりたい!」

 「ダメよ、絶対にダメ。見ている分なら文句はないけれど参加するって言うなら話は別よ、どうせユウトと一緒にやりたいとか不純な動機なんでしょ? いい、これは遊びじゃないのよ」

 「ルナさんのケチ……ねえお兄ちゃん、わたしもね将来おじいちゃんのような立派な猟師になるために力をつけたいの、だからお願いお兄ちゃんと一緒に修行してもいい?」

 「ダメよユウト、こればっかりは断りなさい」

 「…………ルナには悪いけど俺は参加してもいいと思う。危険だって言うなら俺も反対したかもしれないけど聞いた話じゃ別に危険って感じじゃなかったし、赤ずきんも夢のためだって言ってるしいいと思うけど、それでもダメか?」

 「ぐ、ぬぬ……ああもうっ分かったわよ! 赤ずきんの参加を認めてあげるわよ。けど少しでもふざけるようならすぐに追い出すからね」

 「やっったーー、ありがとうお兄ちゃん大好き」


 真正面から抱きついてくる赤ずきんの喜びようは凄まじく、俺の胸元に顔を埋めながら頭をぐりぐりと擦り付けている。その仕草がなんだか犬みたいだなと思い微笑ましかった。

 見れば、対面のルナは不機嫌な表情を隠そうともせず俺に乾いた笑みを向ける。それが恐ろしく咄嗟に視線を逸らし、少し名残惜しかったが赤ずきんを引き剥がす。


 「さ、早速修行を始めようぜ、それでまずは何から始めるんだ?」

 「はあ……まあいいわ、それじゃあ始めるにあたって一つ聞いておきたいのだけど二人は魔力コントロールを習得しているかしら?」

 「魔力コントロール?」


 鸚鵡返しに問い返す俺に思い出したかのようにルナは答える。


 「確かユウトの世界では異能って呼んでたのよね。魔力コントロールって言うのは魔法を使うための力、魔力を制御することなんだけどユウトの世界ではどうだったのかしら?」

 「どうって……そもそも俺のいた世界じゃあ名前すらついてないぞ。今、ルナから聞いて初めて知ったぐらいだ」

 「……おかしいわね。魔法を使う上では基礎のはずなのに……使える人は一人もいなかったのかしら?」

 「そもそも、魔力コントロールってのがどういうものなのかが分からないから使えている人がいたかを俺は判断できないな」

 「なるほどね、それじゃ赤ずきんは?」

 「おじいちゃんから聞いたことはあるよ。魔力コントロールを会得することが猟師として一人前になるための第一歩だって言ってたから。でも具体的なやり方を教えてもらう前におじいちゃんは死んじゃったんだけどね」


 えへへ、と笑いながら話す赤ずきんから悲しさなどは感じられなかった。

 表面上通り悲しくないのかそれとも内心では悲しんでいるのか分からないが、どっちであろうと今ここで掘り返すような話ではないため、思うところはあるが気にすることなく話を続けることにした。


 「それじゃあ、この中で魔力コントロールを知らないのは俺だけってことか。ルナは魔力コントロールが基礎だって言ってたけど使えなくても魔法自体は使えるんだろ?」

 「確かに魔法は使えるわね。ユウトの世界がどうだったかは分からないけれど私の世界では魔力コントロールを習得しているのが生きていく上で必要不可欠だったってだけの話よ」

 「ふ〜ん、ルナさんのいた世界って物騒な世の中だったんだね」

 「否定はしないわ。そんなことよりも魔力コントロールを知らないユウトのために軽く説明するわね。さっきも言ったけど魔力コントロールって言うのは身体に流れている魔力を制御することなの、そうすることによって魔法の精度や威力の上昇、身体能力の向上や強化をすることが出来るの」

 「……なるほどな」


 一つ頷いて、俺は軽く魔力コントロールについて整理する。

 つまり巨浪の首や体を真っ二つにして見せたルナの常人離れした魔法の威力は魔力コントロールによるものだったわけだ。具体的にどうやって威力を上げているのかは分からないがおそらく魔法を行使する部位、腕や脚などに魔力を集中させることによって威力を上げているのだろうと思う。だが一つ分からないことがあり疑問を口にする。


 「なんとなくは分かったけど、魔力をコントロールすることでどうして身体能力まで上がるんだ?」

 「それはね魔力が身体の中の器官や臓器を強化してくれるからなんだけど……そうね、例えば生身で剣を受ければ簡単に肌を貫けてしまうけど鎧を着ていればかすり傷程度で済むでしょ? 魔力コントロールって言うのは鎧や剣みたく自分を守るための防具や攻めるための武器みたいな認識ね」

 「鎧や剣……要はパワードスーツみたいな感じで……魔力によって筋肉や骨とかが増強されることによって常人離れした動きが出来るようになるわけか」

 「その通りよ。魔力コントロールを使える者と使えない者とでは天と地ほどの差があるの。だから、強くなるためには絶対に必要なことなのよ」


 ビシッと人差し指を突き立てて力説するルナ……確かに、それはそうかもしれない。魔力コントロールを使えるようになれば魔法を使えなくとも戦えるようになる。

 今よりも力や素早さ耐久力が上がると考えれば戦闘になったとしても足手まといにはならずに済むかもしれない。


 「よし、なんかやる気が出てきたぞ。早速開始とといこうぜ」

 「はいはいはーい、わたしも早くやりたーい」

 「慌てなくてもこれからやるわよ。でも、簡単に出来るとは思わないことね」

 「ああ、もちろん分かってるよ……改めてよろしくお願いします」


 頭を下げた俺を見て赤ずきんもまた『よろしくお願いします』と真似をした。

 そんな俺たちにルナは慌てたように声を出す。


 「ちょっとちょっと頭を上げてよ、やりにくいでしょ……まあ覚悟は伝わったわ。それじゃ時間も勿体無いし始めましょうか。魔力コントロールを習得するにあたって一番大事なことは自分の中に流れている魔力を自覚することよ」

 「自覚……具体的にはどうするんだ?」

 「そうね、二人ともその場に立ったまま目を閉じて……いいわ、そのまま集中して感覚を研ぎ澄まし魔法を使った時の感覚を思い出して──」


 目を閉じルナの声に耳を傾けながら俺は初めて魔法を使った時のことを思い出していた。


 八歳の頃、父さんに魔法を見せてもらっていた時のことだ……なんの予兆もなく右の胸に熱い何かが疼くような感覚がして、そのまま手のひらをテーブルの上においてあるガラス製のコップへと翳す──するとコップはかたかたと音を立て始めバリンと粉々に砕け散った。

 その時と同じように俺の右の胸に何かが疼いているのを感じる。多分これが魔力なのだろう。

 けど、感じるだけで魔法が使えるような兆候はなく、また魔力を操作出来る感じもしない。


 「右胸に多分だけど魔力を感じるけど、ここからどうすればいい?」

 「わたしも右の胸に感じる。魔法を使うと同じ感覚だから間違いないと思う」

 「二人ともいい集中力ね……二人が右胸に感じている感覚が魔力で間違いないわ。ここから次のステップに進むけれど難易度は格段に上がるから集中力を切らさないようにね。今感じている魔力を制御していく段階に入るけれどこれには個人差があって、一様にこれといった教え方はないの。私から言えるのは魔力コントロールはイメージ力が大事になってくるってこと、だからどんな物でもいいから魔力を身体に巡らせるイメージを意識してやることよ」


 右胸から全身へと流れている魔力を感じ取ることは出来ているが、これを制御つまりは自分の意思で自由自在に操ろうとすると途端に難しくなる。

 そもそも物理的に触れたりする物ではないため勝手が分からない。

 ルナはどんなイメージでもいいって言ってたが、正直イメージの問題でどうにかなるとは思えないんだよな。さっきから色々と頭に思い浮かべてるけど一向に制御出来ている気がしない……何かしらコツみたいなもんがあればいいんだけど。

 とか何とか考えていると、隣から妙な違和感を感じて目を開く。


 「あっ! わたし出来たかもしれない」

 「随分と早いわね。まだ始まって五分も経っていないけれど本当かしら? ちょっと軽く跳んでみてくれないかしら」

 「うんいいよ。えい! うわ、すごいすごい嘘みたいに身体が軽いよ」


 おおよそ軽く跳んだとは思えないほどの跳躍力で赤ずきんは家よりも高く飛び上がった。

 着地した赤ずきんは足を痛めるそぶりも見せず、笑顔を浮かべ何度も繰り返し飛び跳ねていた。


 「まさか本当にこの短時間で習得するとは思ってなかったわ。天才って実在するのね」


 ポツリと独り言を呟くルナに俺は、どれぐらいで魔力コントロールを使えるようになったのかを訪ねてみる。


 「ルナは、どうだったんだ?」

 「私? 私は寝る間も惜しんで鍛錬したけれど三日はかかったわ」

 「まじか、それでも三日か……俺は出来るようになるまでに一体どれだけかかるんだ」

 「ユウトなら大丈夫だと思うけど、ほら初めて星剣を使った時だってちょっと教えただけで車を出して見せたじゃない」

 「あれは……なんとなく星剣の使い方が頭に浮かんできたからで、多分それがなきゃ出来てなかったと思う。それに魔力コントロールは取っ掛かりすらつかめないっていうか感覚が分からないんだよな」

 「まあ、そこが一番難しいところだからしょうがないわね。そうね……私の時は魔法を使いながら魔力が流れるコツを掴んでいったけれど、魔法の使えないユウトじゃそのやり方は出来ないし困ったわね」

 「やっぱ今の俺じゃ無理なのか……」


 思わず弱音が溢れでる俺。

 魔法を使えていればもっとすんなり魔力を理解できていたかもしれないが、今の魔法を使えない俺からしたら、魔力なんて身体の中で脈打つ血液と対して変わらない。唯一違う点があるとすれば魔力は脈打たないってとこだろう。

 と、自分の今後について打ちひしがれている俺の元に栗色の瞳を不安げに揺らした赤ずきんがやってきた。


 「ねえねえお兄ちゃん。魔力コントロールのやり方わたしが教えてもいい?」

 「ちょうどルナが教えてくれたやり方じゃうまく出来なくて困ってたところだから、赤ずきんが教えてくれるなら喜んでお願いするけど……赤ずきんも今覚えたばかりなんだろ?」

 「そうだけど案外簡単だからわたしでも教えてあげると思ったんだ。だからわたしに任せて! お兄ちゃんならすぐ出来るようなるから」


 不安げだった表情から一転してパァと明るい笑顔を浮かべ、自らの胸をポンと叩く赤ずきんを微笑ましく思い、自然と目尻が下がる。

 直後、正面から冷徹な視線を感じ、それがルナのものだと分かり気を引き締め直す。


 「そ、それじゃあ教えて欲しいんだけど。赤ずきんはどうやって魔力の制御に成功したんだ?」

 「わたしの場合はさっきルナさんが言ってたみたいに、いつも魔法を使っている時の感覚を真似してみたら出来たんだけど……この方法じゃお兄ちゃんは一生かかっても魔力コントロールを会得することが出来ないって思って、どうしたらいいのかなってわたし考えたの……で、思いついた方法っていうのがズバリ〝イメージ力〟だよ」

 「それって最初にルナが言ってたやつだろ? 俺なりに色々想像してみたけど全然魔力を制御出来てる感じがしなかったんだよな」

 「えっと……言いづらいんだけど、多分お兄ちゃんは頭に思い浮かべてるだけなんだと思うの」

 「まあ、確かに言われてみればそうかも? 想像しても結局そこからどうしたらいいのか分からないっていうか、それで魔力を制御出来るイメージが湧かないんだよな」

 「うんうん、だからねお兄ちゃん用にやり方を少し変えてみようと思って……あのね、お兄ちゃん目を瞑って両手出して」

 「えっとこうか?」


 なぜか頬を赤らめ声も萎んでいく赤ずきん、意図は分からないがとりあえず言われた通り両手を前に突き出し目を閉じる。


 「じゃあ始めるね」


 赤ずきんの合図と共に、俺の手よりも一回りも小さい温かくて柔らかい手の感触を両手に感じ目を開けそうになると──。


 「目を開けちゃダメだよ。そのままわたしの手を握り返して魔力を感じてみて」


 開けかけた目を閉じ直し、赤ずきんの手を優しく握り返しながら改めて魔力を感じ取ることに集中する。


 「ん……あれ? なんだこれ、俺のとは違う魔力を感じるけど……これって赤ずきんの魔力か?」

 「うんそうだよ。今、お兄ちゃんの中にわたしの魔力を流してるんだ。これで少しでも感覚を掴めればいいと思って」

 「一人でやるよりは魔力を身近に感じる、けど感じるだけで根本的な解決にはならない気がするな」

 「えへへ、やっぱりそうだよね。もしかしたらこれで出来るようになるかもって思ったんだけど失敗失敗。でも安心してわたしが考えた作戦はここからだよ、今からお兄ちゃんにはわたしの声だけを聞いて想像して想像して想像してもらうから集中してね」

 「分かった」

 「じゃあ始めるね……まずはお兄ちゃんの魔法を想像してみて」


 ──俺の魔法は……絆を紡いだ相手の魔法を使うことが出来る扱いの難しい魔法だ。今までは父さんと母さんの魔法しか使えず、周りから弱いだとか他力本願だとか馬鹿にされたこともあり小学生の頃はハズレの魔法だと落ち込んでいたこともある。


 「お兄ちゃんが魔法を使う時にいつもどんなことを感じていたかを思い出して想像してみて」


 ──魔法を使う時はいつだって右胸に温かい何かを感じた……それが魔力なのだとさっき初めて知り、改めて魔法を使おうと試みたがやはり魔法が発現することはなかった。


 「そのまま集中して魔力を感じてみて何が見える?」


 何が見える? 分からない真っ暗で何も見えない…………でも感じる。温かくて心地いい何かが俺の心をほぐしてくれているのを。

 真っ暗な視界の奥から何かがこちらへと近づいて来ている……やがて目の前までやってきたソレは一筋の赤い糸だった。


 「……糸が、赤色の温かくて安心する糸が見えるけど、どこから来ているのかは分からない」

 「その糸を辿ってみて、きっとその先にお兄ちゃんの答えがあるから」


 赤ずきんの声に従い赤い糸が続いている方へと辿り歩く。

 体感五分近くは歩いていた気がする。いつの間にか周りは真っ白になっていたが糸の終着点は見えてこない。

 歩いて歩いて歩き続けた。どこまで続いているのかも分からない赤い糸の出どころへ辿り着くために、そこに何があるのかを知るために、赤ずきんが言う答えを得るために進み続け、今、ようやく目の前のそれへと至る。


 「…………ドアだ、何度も見たことがある俺の部屋のドアだ……糸はそこから出てるみたいだけど、なんでこんなところに」

 「ドア? ねえお兄ちゃん、そのドアを開けることって出来る?」 

 「多分出来ると思う」


 数えきれないほど出入りしてきた自室のドアノブを握りしめた俺は、妙な緊張と恐れに包まれていた。まるでこの先に踏み入ることを体が心が拒否しているみたいだ。

 何となくドアの向こうにあるのは俺の部屋ではない気がして、進むのが怖かったけど何故かこの先にあるのは危険な物ではないと言い切れる。

 そんな矛盾した気持ちを抱え、震える右手を押さえ込みドアノブを回す。

 相変わらず真っ白の空間だったが、そんな周りの光景よりも俺の心を支配したのはドアの先へと続いていた赤い糸の本体? である何色もの糸で出来た大きな玉だった。


 「何だこれ? 色とりどりの糸で出来た巨大な玉? こんな物が見えるなんて俺はおかしくなったのか」

 「ねえお兄ちゃん、そこにドアとか他のものってあったりする?」

 「いや見当たらないな、ここにあるのは巨大な玉だけだ」

 「……そっか、ちゃんと辿り着けたみたいだね。今見えてる糸の玉がお兄ちゃんの魔法そして心だよ」

 「……これが俺の魔法なのか」

 「もっと驚くかなって思ったんだけど、気づいてた?」

 「何となくだけどな……でもそっかこれが俺の魔法なのか、未だに使える気はしないけど魔法を失ってたとかじゃなくて安心したよ」

 「お兄ちゃんが魔法を使えない理由も糸の玉に触ればすぐに分かるよ。それに魔力コントロールを会得するための方法もね」


 相変わらず俺の心はこの空間を拒絶しているが、それをグッと抑え込み一歩一歩玉へと足を進める。

 吐きそうなほどの嫌悪感や倦怠感が俺を襲うが、ゆっくりゆっくりと玉に手を伸ばし軽く触れる。


 瞬間、全てを理解した……なぜ恐れていたのか、なぜ魔法が使えないのか。


 「何だよ……簡単なことだった。結局行き着く先の答えは全部全部っ俺が弱かったからじゃねーか」


 現実へと意識を戻した途端、今までになく集中してたせいか身体から力が抜け膝をつくと今度は己の弱さが悔しくて申し訳なくて、気づけばポロポロと涙がこぼれ出てきていた。

 涙のせいでぐちゃぐちゃだった視界がフッと真っ黒に染まる。

 一瞬の出来事ではあったがこの優しく包み込まれる感覚には覚えがあり、すぐに誰かに抱きしめられているのだと分かった。


 「大丈夫だよ、お兄ちゃんは弱くなんてないよ。わたしを身体を張って助けてくれたお兄ちゃんが弱いわけないよ。だから自分を責めないでお兄ちゃんが悪いことなんて何もないんだから、もしそんな意地悪なこと言う人がいたらわたしが許さないもん」


 俺の頭を撫でながら赤ずきんは静かに丁寧に言葉を紡いでいく、その優しさが温もりが嬉しくて余計に涙が溢れ出てくる。

 俺よりも年下の女の子に亡くしたはずの母さんの面影を感じ今は、今だけはこの安心する心地よさに身を委ねることにした。

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