第11話 お姫様
キノコを集め終わった俺は、合流地点である場所へ戻ると、木の根元に腰を下ろし綺麗な銀髪を指先でくるくるいじっているルナと目が合った。
「お帰りなさい。それにしても随分と多く集めたのね、私なんて全然見つからなくて早々に諦めて帰って来ちゃったわ……ん? 少し元気がないようだけど何かあったの?」
「いや特に何もなかったよ。ただ見ての通り大量に採ってきたせいで疲れただけだ……赤ずきんの姿が見えないけど、まだ戻って来てないのか?」
「おかしいわね、さっきまでここにいたのに一体どこに行ったのかしら?」
急にいなくなったことに嫌な予感を覚えるのと同時、先程見た黒い渦と世界の崩壊を目論むカイの顔が頭をよぎり背筋が凍り血の気が引くのが分かる。直ぐに探しに行こうとルナに提案しようと口を開きかけた時だった。
「お・に・いちゃーん」
そんな声が聞こえ振り返ると、何かが俺の胸部へ思い切り飛び込んできた。
受け止めようとしたが、咄嗟のことにバランスを取ることが出来ず勢いに負けそのまま地面へと尻もちをつく。
何事かと思い視線を向ければ、そこには今しがた心配していた赤い頭巾を被った少女、赤ずきんが俺の胸元に顔を埋めていた。
「えへへ~いい匂い」
「ちょっといきなり抱きつくなんて何を考えているのよ。早く離れなさい」
ルナの手によって引き剥がされた赤ずきんはブツブツと文句を言っていたが、俺の持ってきたキノコを見た途端に目を輝かせ始めた。
「わあ〜こんなにたくさんのキノコを見るのは初めてだよ。これ全部お兄ちゃんが一人で集めてくれたんだよね?」
「まあ、そうだけど。実際食べられるのがどれだけ残るか分からないし期待はしないでくれ」
「えへぇ、嬉しすぎてにやにやが止まらないよお。ルナさんは一本も採ってこれなかったから余計に嬉しいよ。ありがとうお兄ちゃん」
赤ずきんの悪気のない発言にムッとした視線を俺に送ってくるルナを尻目に、内心ヒヤリとしつつ話を進める。
「あ、ああ喜んでもらえたなら良かったよ。それじゃパパッと鑑定の方を頼むよ」
「うん任せて──」
夜の森を明るく照らすように赤ずきんは自身の魔法である火の玉を浮かべ一つ一つ丁寧にキノコを調べ終えた結果、最終的に残ったキノコの数は赤ずきんのと合わせて十五本となり十分な成果となった。
▲▼▲▼▲▼▲▼
キノコ集めが終わった俺たちは赤ずきんの案内のもと目的地であるおばあさんの家へと足を進めていた。
赤ずきんの物語では、この後おばあさんに扮した狼に赤ずきんは食べられてしまうわけだが、特に不安や心配はなくむしろ安心していた。
なぜかと問われれば、神様の話を聞いて絵本の中ではない事が分かっているのと、たとえ狼が出て来たところでルナがいる以上こちらが負けるわけがないからだ。
もちろん絶対なんてないのは分かっているし、そう簡単に物事が都合よく運ぶとも思っていない……けど巨狼三匹をなんの苦もなく倒せてしまうルナが苦戦するところを想像することが出来ないのと言うだけだ。
とそんなことを考えていると隣を歩いていたルナが静かに口を開いた。
「灯の代わりにも使えるなんて便利なものね。その火の玉を操るのが赤ずきんの魔法なの?」
「ちょっとだけ違うかな、わたしの魔法は聖なる
「私の魔法は風を操ることが出来るのよ。空だって飛べるし移動に関しては便利な魔法ね。でもそれだけじゃなくてね私の魔法はいずれ天候を変えることも可能なくらいに強力になるってお兄様は言ってたわ」
「いいないいなー。空を飛べるなんて絶対気持ちいいしおばあちゃんの家にもひとっ飛びで行けちゃうし羨ましいなあ〜。っは、もしかしてお兄ちゃんも凄い魔法なんじゃ?」
「……期待の眼差しを向けられているところ申し訳ないが、俺の魔法は赤ずきんやルナのように凄くないぞ、絆の
自分の現状を口に出したことにより改めて理解し恥ずかしさに視線を逸らし立ち止まると、赤ずきんは軽やかな足取りで一歩ずつ俺との距離を詰め、にこやかな笑顔を浮かべた。
「がっかりなんてしないよ。お兄ちゃんの魔法は特別で素敵だとわたしは思う。だってお兄ちゃんはわたしの魔法やルナさんの魔法を使えるってことでしょ? 今は使うことが出来なくても使えるようになれば最強だよ。それに二人の愛の力が目に見える形で分かるなんてロマンチックだよ」
「愛の力かどうかは置いておくとして私も赤ずきんと同意見よ。そんなに自分を卑下することなんてないわよ……私なんて魔法を使えるようになったのは十歳の時でね、初めてのことでうまく制御ができなくて城の中をめちゃくちゃにしてお父様に叱られたのは苦い思い出よ。笑っちゃうでしょ」
使い勝手が悪く両親以外に褒められたこともない俺の魔法を、みっともない俺の姿を見ても赤ずきんは特別で素敵だと、ルナも意見を変えることなくむしろ自分の恥ずかしい過去を語ってまで励ましてくれる。そんな心優しい二人にありがとうと一言感謝を伝え止めていた足を動かした。
この時、俺の胸の中に温かい何かが燻っていたが気のせいだと思い特に気にすることはなかった。
それから十分ぐらいは歩いただろうか、ようやく目的地である赤ずきんのおばあちゃんの家へと辿り着いた。
一人暮らしだと聞いてはいたが、随分とこじんまりとした木製の一軒家を目にしながら俺は『あれ? これ俺たち三人も泊まれるのか』と不安が頭をよぎる。
「ねえ、これって本当に家なの? 物置と間違えているんじゃないかしら」
「おいおい、ルナは一体何を言っているんだ?」
「だってこんな小さな家なんて見たことがないもの」
「いや見たことないってどこのお嬢様だよ。確かに一軒家にしては小さめかもしれないけど一人暮らしってことを考えれば普通だろ」
「えっこれが普通……い、一応聞くけどユウトの家もこのぐらいだったの?」
「まあ大体この家の二倍ってところだな」
「そう、なのねユウトの家でも二倍……勉強になるわ」
「さっきからわたしのおばあちゃん家を馬鹿にしてるけど、嫌ならルナさんは来なくてもいいからね」
怒り心頭といった様子でルナのことを睨みつける赤ずきん……どうやら、大好きなおばあちゃんの家を悪く言われることが我慢ならないのだろう。
まあ、ルナに悪気はないと思うが、この状況ではそう思われても仕方がないと言える。
それはともかく──怒る赤ずきんを宥めつつルナも誠心誠意謝ったことによって、なんとか難を逃れ内心ホッと胸を撫で下ろしながら、後できちんとルナと話し合おうと心に誓った。
落ち着きを取り戻した赤ずきんは先におばあちゃんに報告を入れてくると言い残し家の中へと入って行く。となれば必然その場にはルナと俺の二人だけの空間が出来上がり俺は、この際だと思いルナへと質問してみることにした。
「なあ、前から少し気になってたんだけどルナってお嬢様とか金持ちの子供なのか?」
「まあ当然気になるわよね。隠しておくことでもないし話してあげる……私の本当の名前はルナ・ホロウハート。ホロウハート王国の第一王女それが本当の私。今となってはこの肩書きになんの意味もないけれどね」
「……まじか、ルナってお姫様だったのか。っは、頭下げた方がいいか」
ルナが王族だと知り、俺は慌てて膝をつき頭を垂れようとすると慌ててそれを静止する。
「ちょっとやめてやめて。そんなことしてほしくて話したわけじゃないから今後とも今までのように接してよね」
「お、おう。ルナがそう言うならそうさせてもらうけど、それにしても王女か……」
「今、王女には見えないって考えたでしょ? 別にいいわよ昔からよく言われてたことだし今更気にしないわ。それにもう王女ではないもの」
「うっなんかごめん。デリケートなことだったよな」
「謝る必要なんてないわよ。立場は違えどユウトだって同じように失ったんだもの……むしろ謝りたいのはこっちの方よ。さっきので分かったと思うけど私はずっとお城で過ごしてきたせいで一般常識が身についていないの……そのせいで赤ずきんを怒らせちゃうし本当に迷惑な女よね」
「迷惑だなんて思わないさ。そんなこと言ったら未だ魔法を使えない俺の方が迷惑だしな。その点魔法を使えるルナのことはめちゃくちゃ頼りにしてるし、世界を失った悲しみを分かち合えるのもルナだけだから密かに親近感って言うのも感じてる。んーだから何が言いたいかって言うと……そう互いに足りない部分は補い合えばいいってことだ」
「……っふふ、そうね、そうよね……ユウトの足りない部分は私が、私の足りない部分はユウトが補う、きっとそれが仲間ってことなのよね。私ユウトと出会えて良かったって心から思うわ」
「俺もそう思うよ」
今まで見せた中でも一番いい笑顔でそう言うルナに俺も笑顔で返す。
その直後ギィっと言う音と共に玄関が開き、隙間からひょこっと顔を出した赤ずきんが手招きで入ってきても大丈夫だと知らせており、俺とルナは赤ずきんの待つ家の中へと足を進めた。
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