第5話 事件発生

 目を覚まし何気なくボーッとしていること数十分。コンコンとドアをノックする音と共に声が聞こえてきた。


 「起きていたら返事をしてもらってもいいかしら」


 俺がその声に軽く返事を返すと、『入るわね』と言いながらドアを開き綺麗な銀色の髪を一つに束ねたルナが悠然と部屋の中へと入ってきた。


 「随分早く起きたようだけど眠れなかった? 寝具の質は良いはずのだけどやっぱりベッドの大きさが足りなかったのかしら? そうよねきっとそうだわ、私も初めて見た時は驚いたもの。ベットの大きさを変えるようにちょっと神様に言ってくるわ」

 「いやいや、大丈夫よく眠れたよ。ベットも枕もふかふかで気持ちいいしぐっすりだったよ」

 「そう? それなら良かったわ……少し目が腫れぼったいけれどどうしたの?」

 「……えっと」


 ルナの質問に馬鹿正直に『実は昨日泣きまくちゃって』なんて言えるわけもなく、かといって他に言い訳も思いつかなかったため、俺は話を逸らすことにした。


 「そんなことよりも、ルナはどうして俺の部屋に?」

 「む、話を逸らすなんて何か怪しいけれど。まあ良いわこれ以上詮索はしないであげる。それで私がここに来たのはズバリ、ユウトに聞きたいことがあるのよ」

 「聞きたいこと?」


 オウム返しに聞き返すとルナは人差し指をビシッと突き出すと食い気味で話し出した。


 「そうよ、私が聞きたいのはね仲間になる上でとても重要なことよ。だから嘘なんてついたらダメだからね」


 ルナの圧に若干気圧されながらもコクリと頷き返した瞬間、突如頭の中に声が響いた。


 『悠斗、ルナ、今すぐに僕の元へ来てほしい』

 「なあ、今のって」

 「ええ、神様からのテレパシーね。きっと何かあったんだわ、行きましょ」


 ルナの後に続き神様のいる広間へと移動すると、何やら神妙な表情の神様が待っていた。


 「あの、それで神様、何かあったのか?」

 「うん、闇の力が強まっているみたいなんだ」


 神様からの言葉を聞いた途端、ルナの表情が固くなった。


 「そう、またなのね……次は絶対に阻止してみせる」

 「闇の力?、強まってる?、一体どういことだ?」

 「悠斗にも分かるように話そうか。ほらこれを見てごらん」


 そう言いながら神様が指をパチンと鳴らすと──広間一帯が暗くなり、そして無数の光り輝く球体が浮かび上がった。


 「おいおい……マジかよ。これって世界の境界か?」

 「よく知っているね。これは世界の境界のレプリカだ──見てもらいたいのはこの世界だ、微小ではあるが黒くなっているのが分かるかい?」


 神様の手元に引き寄せられた一つの世界をジッとよく見ると、ゴマ粒程度の黒い点があるのが分かる、俺は視線を神様へと戻しコクリと頷き返した。


 「この黒い点が世界を崩壊へと導く闇の力。誰にでも素質がある力……簡単に言えば悠斗の見せた怒りが闇の力さ。で、この闇の力なんだけど実は世界の均衡を保つために必要なありとあらゆる力の根源でもあるんだ。そのため本来であれば危険なものではないんだけど裏を返せば闇が強まれば強まるほどに世界の均衡は崩れていって、やがて崩壊をもたらしちゃうのさ」

 「つまり、この世界で闇の力が強まっているってことなのよ。このままこの世界を放置していると私やユウトの世界のように闇に呑まれて崩壊してしまうのよ。だから崩壊を阻止するために私たちはこの世界に行って原因を見つけ解決するってわけよ」

 「なるほどな完璧に理解した。けど一つ、こんな無数にある世界の中でどうやってその世界に行けばいいんだ?」

 「ああそれなら安心するといい。僕の力でナビゲートをしてあげるから迷うことはないよ。無事に世界へと辿り着いた後は……僕に出来ることはなくなるから悠斗たちに任せるって感じかな。それじゃあ準備が出来たら出発してくれるかな」

 「分かったわ。私の方は特に準備するものは無いからいつでも出発できるけど、悠斗は何か準備することはある?」

 「俺も無いよ。そもそもここに来たばかりで準備も何も右も左も分からん状況だしな」

 「それもそうね。なら早速出発しましょうか」


 ルナの言葉を最後に俺たちは広間を後にし、天界に入って来た時と同じ馬鹿でかい扉の前で扉が開くのを待っていた。


 「さ、早く、くるまを出してちょうだい」

 「えっ、また俺の車で行くのか?」

 「ええ、だってその方が効率が良いもの。それに座り心地がよくて気にいっちゃたのよね。これから移動するときは毎回くるまでいいわね」

 「なんでだよ。自分の星剣を使えばいいだろ」

 「私のは乗り物じゃないのよ。それに言ったでしょ車が気に入ったのよ」

 「そうかい、分かったよ。んじゃ行くか」


 車のことを気に入ったと笑顔を浮かべるルナを尻目に、扉が開いたのを確認した俺は星剣を車へと変形させルナと共に中へと乗り込んだ。

 扉の先には世界の境界が広がっており、幼い頃に感じた冒険心とでも言うのかワクワクした気持ちが溢れていた。父さんたちを失った悲しみや怒りが消えたわけではないが、気持ちを切り替えるのも大事なことだよな……それにいつまでも辛気臭くしてたら父さんたちに怒られるしな。


 これから始まる想像を絶する俺の物語に心を躍らせ、俺はハンドルを強く握りしめまだ見ぬ世界へと車を発車させた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る