第4話 天界と神様 後編
「で、神様はその話をなんで俺に聞かせたかったんだ? 今の話が俺に関係あるとは思えないんだが」
「いや、それが関係大有りなんだ。まあ僕が不完全な状態で復活したことは察してくれているとは思うけど、多分そのせいで世界が崩壊する現象が起きていると思うんだ」
「は? え……多分ってどういうことだよ」
「どうって、うーん……僕も原因は分からないんだけど少なくとも僕が死んでいる間に世界が崩壊したって記憶は僕の中には無いんだよ。つまり世界が崩壊しているのは僕が不完全な状態で復活してしまったことが原因なのかもしれないんだ」
「……じゃあ俺の世界が崩壊したのは、あんたが復活したからってことかよ?」
「現状ではそうなるね」
表情を変えることなく肯定する神様に、俺は腹の底から湧き上がる怒りを抑えることができず感情のままに声を荒げた。
「っッッ、ふざけるな‼ そんな、そんな勝手な理由で俺の家族は死んだっていうのかよ。返せよ俺の家族を世界を返せよ」
「すまない、それは出来ないんだ」
分かっていたことだがその言葉を聞いた瞬間、俺は右手に星剣を出し神様へと振り下ろした。
だが星剣が神様の元に届く前にもう一本の星剣によって阻止された。銀色の髪を靡かせ俺と神様との間にルナが割り込み鍔迫り合っている中、今まで閉ざしていた口を開いた。
「あなたが怒る気持ちもよく分かるわ。けどお願い剣を下ろして……今ここで神様を殺しても何も解決なんてしないわ」
「お前に俺の気持ちが分かるわけないだろ」
「分かるわよ。だって私もあなたと同じだもの。あなたと同じように私も多くを失ったわ家族も友人も帰るべき世界も……だから痛いほどあなたの気持ちが分かる」
そう言うルナの黄色の瞳からぽろっと一粒の涙がこぼれ落ちた。それを切っ掛けに次々と涙が止まることなく溢れ出し、その姿を目の当たりに自然と俺の手から力も抜けていきやがて星剣も消失した。
「なんで、どうして俺の気持ちが分かるくせに君はあいつの味方をしているんだよ。君の世界だってあいつのせいで崩壊したんだろ?」
「確かに神様のせいかもしれない。でも神様は私をあの真っ暗な何もない世界から助けてくれた。そんな神様が悪な訳がないわ……きっと別の何かが理由が原因があるはずよ」
怒りが消えたわけではない、が少なくとも涙を流しているルナと戦う気力などなかった。
それに──あの真っ暗な世界にいたから分かるが、あんな誰もいない何もない世界から助けられることがどれだけ自分にとって救いになるかなど考えるまでもない。
落ち着いて考えてみれば、そもそも本当に神様のせいならわざわざルナや俺に自分が疑われるような話なんてしないはず。それを考慮すれば一概に全て神様が悪いという考えは安直すぎる。
今更になってそんなことに思い至るが、だからと言って神様を許すことなんて出来ない。
神様が意図せず世界を崩壊させていたとしても、話を聞く限り神様が原因の一端であることは間違いないのだから、けどそれとは別にルナの言った原因があるかもしれないのも事実だろう。神様が何をどこまで知っているのかは分からないが、まずはもっと話を聞き情報を集めるしかないだろう。
「分かった、君に免じて神様を殺さないことを誓うよ」
戦う意思がないことを示すように、俺が両手を上げるとルナは涙を拭い潤んだ瞳をこちらへ向け言葉を返す。
「ほんとに?」
「嘘はつかない嫌いだからな……でも本当に神様が悪かったその時は、たとえ君が立ちはだかろうと俺は神様を殺す」
「ええ、それでいいわ。その時はきっと私も……」
それ以上、ルナは口にはしなかったがその先に続く言葉は容易に想像することができた。
当初ルナも神様から話を聞いた時、俺と同じように怒っただろうけどルナの場合は怒りをぶつける対象に救われたため、やり場のない怒りは辛く苦しかったはずだ。
「それで、神様は俺の世界で何があったのか教えてくれるんだよな?」
「もちろん。僕の知っていることは嘘偽りなく全て話すことを誓おう」
あんなことがあったにも関わらず神様は俺に対してニコリと微笑みながら、あの日、俺の世界で何があったのかを話し始めた。
「そうだね、まず悠斗の世界では崩壊と呼ばれる現象が起きたんだ」
「崩壊? なんでそんなことが起きたんだよ」
「ごめんね、それは僕でも分からないんだ。そもそも世界が崩壊するなんてことは本来あるはずがない。悠斗にも分かりやすく話すと世界とは一本の大きな大樹のようなものでね、木が自然に枯れることが無いように世界もまた自然に崩壊することはないのさ。まあ大樹でも何かしら病気にかかり枯れてしまうことがあるらしいけど……世界は大樹ではないから関係ないね。つまり何が言いたいかというと、自然に世界が崩壊することは絶対にないってことさ。だから世界が崩壊するとしたら誰かが世界に干渉した以外考えられない……けど普通はそんなことが出来る者なんて存在しない、それこそ神でもない限りはね。でも一つだけ神でなくても世界に干渉する方法があるんだ、なんだと思う?」
神様じゃなくても世界に干渉する方法……多分その方法を俺は知っている……俺はその方法を思い出すように静かに思考を巡らせた。本来なら神様でしか世界に干渉することは出来ない。それならば何故ルナは俺のいたあの真っ暗な世界に来れた? 理由なんて一つしかない、俺が天界に来た方法と一緒だ。
そこまで考えると、俺は神様へと向けその答えを口にする。
「……星剣か」
「せいかーい、すごいねその通り星剣だよ。まさか気づくとは思ってなかったよ」
「さすがに馬鹿にしすぎだろ」
「いやいや、馬鹿にしたわけじゃなくてね。悠斗もここまで来るのに色々なことがあったはずさ……だから普段よりも頭は働いてないんじゃないかって思ったのさ」
「ああ、そういう」
正直にいえば、未だ俺の中で全部を処理できてないだけだ。訳もわからず色々なことが起きたせいでな……けど星剣に関しては手にした時から何故か使い方などが手に取るように分かったおかげで自然と答えが出てきたんだよな。我ながらさすがと言うべきか?
「つまり僕が伝えたいのは星剣を悪用している者がいるかもしれないってことなんだ」
「じゃあ、俺の世界を崩壊させたのは神様じゃないってことか?」
「それがそうも言えなくてね。何せ僕もこんな状態だからね一概に僕が原因じゃないとは言い切れないのさ。それにこんな状態の僕でも誰かが星剣を所持すればルナや悠斗の時みたく分かるはず……でも僕が復活してから星剣を手にしたのはルナと悠斗の二人だけ。まあ何が言いたいかというと世界が崩壊しているのは僕が原因かもしれないし、僕の把握していない星剣の所持者かもしれないってことなんだ。ここまで含めて今言ったことはあくまで僕の仮説に過ぎないけれどね」
「なんだよそれ、つまり何も分からないってことじゃねーか」
「そうなるね。だから僕たちは現在起きている謎と事件の解決、究明のために動いているんだ。それでねどうしても人手が足りないから悠斗にも手伝って欲しいんだ」
「そんなの神様が自分ですればいいだろ」
「本来ならばそうするべきなんだけどね。先ほども話したけど僕は神としての力を使えない……それに実体を持っていないせいでここから動くことも出来ない。だから不甲斐ない僕には仲間の助けが必要なんだ」
神様の言葉には不思議と嘘は感じられなかった。代わりに感じるのは熱意や誠実さといった神様の想いだ……それに神様は人間である俺に頭を下げており、それが何よりも驚いたのと同時、神様にとって世界が崩壊することがどれだけ重大なことなのかが分かり、今目の前にいるのは正真正銘、神様なのだと改めて実感した。
神様への答えならもう決まっている。けどもう一つ聞いておかなければならないことがある、その答えによっては……いや、その時はその時か。
「神様、頭をあげてくれ」
「少しみっともなかったね。それで返答を聞いてもいいかな?」
「ああ、でもその前に一つだけ……神様はここから動けないって言ってたけど、その状態でどうやってルナを助けたんだ?」
「……」
俺の質問に対して沈黙を続ける神様に不信感を感じ身構える俺に、突如声が聞こえ始める。
『やあ、聞こえるかい?』
咄嗟に神様へと視線を向けるが、神様はニコリと笑顔を向けるだけで口は開いてはおらず、その間も声ははっきりと聞こえていた。
『どうやら、ちゃんと聞こえているようだね。僕は今、悠斗の心に語りかけているんだ。これと同じようにルナにも話しかけて星剣の使い方を教え、ここまで来てもらったんだ。口で言うよりも実践した方が早いと思ってね、警戒させて悪いね』
困惑している俺を気にすることなく、神様は一方的に話し終えると悠然と口を開いた。
「さて、悠斗の質問にも答えたし今度は悠斗の返答を聞く番だね」
「テレパシーってやつか、これなら確かにここから動かなくても助けれるか……よしなら俺の方もちゃんと答えなきゃな、俺も神様たちに力を貸すよ。正直俺の力なんて大したことないけど、俺もその謎の答えを知りたいからな」
「ありがとう心から感謝するよ、これからよろしく悠斗」
「あなたならきっとそう言うと思ってたわ。私からもよろしくね」
「ああ、こっちこそよろしく頼む。それと俺のことは悠斗でいいぞ」
「分かったわ。それじゃ私のこともルナでいいわよ、ユウト」
「了解、ルナ」
──と、そんな感じで改めて挨拶を交わした後、俺は神様に体を休めるよう言われ、動けない神様に変わり、ルナが寝室へと案内してくれた。
部屋の中は割と広くベットの他に机などの家具が置かれており、これからこの部屋が俺の部屋になると言われた。
一通り話を聞いた後、ルナが自室(俺の部屋の隣)へと戻って行くのを確認してから、部屋の扉を閉めベットに体を預けた。
仰向けになると、俺の視界の先には知らない天井が写る。そして気づく……本当に俺が過ごしていた、当たり前だと思っていた日常が失われたのだと。そう理解すると自然と涙が頬を伝っていた。
その後も涙は止まることなく幾度も頬を伝い枕を濡らした。
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