第2話 出発

 しばらくして落ち着きを取り戻すと真っ暗な世界の中、見ず知らずの美少女に慰められている俺。というかなり特殊な状況であることに改めて気づき思考が止まりそうになった。


 「……えっと、もう落ち着いたから大丈夫です。ありがとうございます」

 「そう、それならよかったわ……っていうか私に敬語を使わなくてもいいわよ。見たところ年齢も近そうだし」

 「あ、ああ、分かった」

 「それじゃ改めて確認するけどあなたがこの世界の最後の生き残りでいいのよね?」

 「多分そうだと思う。何故かは分からないけど生きているのは俺だけだってことが分かるんだ。なあ、君は何か知っているのか? 知っているなら俺に教えてほしい一体何がどうなってるんだ」

 「もちろんちゃんと説明するわ。けどその前にあなたの後ろに突き刺さっている剣を取ってみてくれないかしら」

 「ああ、これのことか……そういえば、この剣も急に俺の前に現れたんだよな」


 彼女に言われ剣を取るために振り返り、俺は剣へと手を伸ばし思い切り引き抜いた。

 すると、煌めきを増した剣から光が溢れ俺の全身を覆い尽くすと再び剣へと戻っていった──瞬間。

 今まで全く知らなかった、剣の使い方などが頭の中へと流れ込んでくる。


 「えっ……なんだこれ。剣なんて触ったことも握ったこともなかったのに……まるで生まれた時から出来てたみたいな……手足を動かすのと変わらない、自分の体の一部みたいに剣の使い方が分かる……変な感じだ」

 「それじゃ、早速行きましょ」

 「行くってどこへ?」

 「それはね、神様のところよ」


  彼女は朗らかに笑いとんでもないことを口にした。


 「は? まてまてまって。俺の聞き間違いじゃないなら……今、神様って言った?」

 「ええ、言ったわ」

 「まじか……それって本当に神様? 俺が認識している感じの?」

 「あなたがどう認識しているかは知らないけれど。多分そうじゃないかしら。さ、早く行きましょ」

 「あ、おう……ってどうやって行くんだ?」

 「どうって、これを使うのよ」


 そう言いながら彼女はその綺麗な銀色の髪を靡かせると、突き出した左手の手元に光が集まり始め一本の剣を出現させた。

 その剣を見た瞬間、彼女の持っている剣は俺の手に持っている剣と同じものであると感じた。形状はレイピアとでもいうのか細長く俺の手にしている剣とは全然違うが、その本質? 起源? みたいなのが同じだと直感で分かる。


 「なあ、その剣って俺が持っている剣と同じなのか?」


 彼女の持つ剣のことが気になり、気がつくと俺はそんなことを口にしていた……特に変なことを聞いているわけじゃないのになぜか俺は申し訳ない気持ちに包まれていた。

 だがそんな俺の内心とは裏腹に彼女は口元を緩ませ嬉しそうに語り始めた。


 「やっぱり気になるわよね。あなたの言う通りこの剣はあなたの持っている剣と同じという認識で大丈夫よ。もっと細かく厳密に言えば違うのだけれど、そのことについてはおいおい話すわ。それよりも、今は早く神様の元へ帰らなくっちゃ。そのためにちょっと剣に念じてみてくれないかしら? そうね、扉とか穴とかとにかく別の場所に行けるような物ならなんでもいいわ」

 「えっと、こうか?」


  彼女に言われた通り剣に念を送ると剣は煌めきを増し一台の車へと姿を変えた。


 「初めてにしては意外とすんなりいったわね、私なんて出来るようになるまでにどれほど苦労したか。それにしてもこれは一体なんなのかしら?」

 「何って、車だけど知らないのか?」

 「知らないわ、こんな奇天烈な物私の世界にはなかったもの。それでこれはあなたにとって大事な物なの?」

 「大事なものか……そう言われればそうかもな。これはこの車はさ、家族との思い出なんだ。この車に乗って色々な所に連れて行ってもらったんだ」

 「そうなのね……なら、せっかくだしこのくるまっていうのに乗っていきましょうか」

 「え、あ……おう」


 彼女と共に車へと乗り込むと一つ大きな問題が生じた。それはどうやって車を運転するのかということだ……なんか勢いとノリで運転席に座ってしまったがどこをどうすればいいのかさっぱり分からない。


 「この乗り物すごいわね、乗り心地が馬車よりも断然いいわ」

 「ああ、そうだろ……って馬車?」

 「知らないの?、馬が引っ張ってくれるのよ」

 「いや知ってるけど、現代で馬車なんて見たことないぞ」

 「それはそうよ、さっきも言ったけど私この世界の人間じゃないし」

 「……世界?」


 先ほどからちょくちょく出てくる世界と言う単語が気になり首を傾げる俺。


 「そう、世界よ。この世にはね様々な世界が存在しているの。あなたも見たらきっと驚くと思うわ。それにしても何をしているの? 早く動かしてちょうだい」

 「えっいや、その動かし方が分からないんだ」

 「そんなの簡単よ、動け〜って念じればいいのよ」


 両手を頭の上でヒラヒラと動かす可愛らしい仕草で教えてくれる彼女に従い、頭の中で車が動くよう唱え続ける。


 「……全然動かないんだが」

 「おかしいわね、動かし方が違うのかしら? この乗り物は普段どうやって動かしているの?」

 「えっと確か……父さんはハンドルを握って足元のペダルみたいなのを踏んでたような」


 そんな風に俺は車に関しての記憶を辿りながらペダルを踏むと、乗っていた車がゆっくりとだが前進し始めた。


 「おぉっ、動いたぞ‼︎」


 そんな風に俺が小さな喜びを噛み締めていると、突如前方に穴のようなものが現れた。

 見える範囲だけでも穴の先はキラキラと光り輝いている球体が無数にあるのが確認できる。


 「ちょちょっちょ、なんだあれは? 穴なのか?」

 「あれはねゲートって言うのよ。このまま前進してゲートの中に入って」


 彼女に言われるがまま俺の視界の先に見える穴、もといゲートに向かい車を走らせた。

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