第1章

第1話 出会い

 だただ真っ暗で何も見えない世界が目の前に広がっていた。暑くもなく寒くもない何もない世界の中、俺は一人生きていてた。

 闇に呑み込まれ死んだと思っていたが息をし手足に力も入る。胸に手を当てればドクンドクンと心臓が脈打つ音だって聞こえる。普通に生きているのに目の前に広がる光景は異常だった。


 ここが一体どこなのか、これからどうすればいいのか分からない。分かっているのはただ一つ……この何もない真っ暗な世界の中で生きているのは俺だけだということだ。

 この世界を全て見たわけではないが分かるんだ。なぜかは分からないけど俺以外に生きている人も動物も植物もこの世界には存在しない。だからこそなぜ俺だけが生きているのかが理解できない。


 自身の置かれてる状況に対して何も活力が湧かず、その場から動けずにいると目の前でキラキラと煌めく光が少しずつ集まり何かを形作り始めていた。数分にも満たない時間で光は一本の剣となり俺の前に突き刺さった。


 「なんだ? どうして剣が現れたんだ……いやどうでもいいかそんなこと。もう全部何もかも全てどうでもいい」


 昨日までの幸せだった日々を思い返しながら、俺は俯き目を閉じる。

 ……本当なら、今頃学校で友達と馬鹿みたいな話をしながら笑ってたはずなんだ。家に帰れば家族がいて今日あったことなんかを話したりしながら夕食を食べてたんだ。ただそれだけで良かった。

 そんな幸せだった日々を思い返し、これまでのことが夢であることを願い瞼を開ける。だが現実は酷く、俺の目に映るのは真っ暗な世界だった。


 分かっていたことではあるが、紛れもなくこれは現実なんだと再認識させられた。ふと真っ暗な世界の中で異質を放っている光煌めく剣が目に入った。これで自分を斬れば楽になれるのだろうか? そんな考えが頭をよぎったが、ぶんぶんと頭を振り思考を切り替える。


 「あなたが最後の生き残り?」


 背後から声を掛けられたような気がしたが、俺以外に生きているものがいない世界で声を掛けられるなんてあり得ないため今聞こえた声は幻聴だ。


 「あの、ちょっと、聞いているのかしら? 黒髪のあなたに話しかけているのだけど」


 若干戸惑った呼びかけに、俺はこの声が幻聴ではないことを自覚し振り返った。

 背後の光煌めく剣のお陰で辛うじて見える視界の先には今までに見たことがないほどの非現実的な美少女が立っていた。身長は女子にしては少し低め、サラサラな銀色の髪を腰の辺りまで伸ばし、その佇まいは漫画やアニメに出てくるようなお姫様のようだった。


 さらに、こちらを見つめる瞳は夜空を明るく照らす月のような黄色。加えて、それらと引けを取らないほどの可愛い顔立ち、すらりとしたスタイルはまるでアイドルや女優のようで、またその身を包む漆黒のドレスは彼女の容姿とのギャップを感じさせより魅力的な印象を引き出している。


 「やっとこっち見たわね。それであなたがこの世界の最後の生き残りってことでいいのよね?」

 「……えっと、あの生きてますか?」


 そんな彼女に今最も俺の中で大事な質問をする。


 「? ……私?」

 「そうです。あの、あなたは生きてるんですよね?」

 「ええ、見ての通りちゃんと生きてるわ。心臓だって動いているもの」


 そう言いながら彼女はくるりと一回転したり手足を動かしたりしてくれた。そんな普通で当たり前のことを目にしているのにも関わらず、俺の内から熱いものが込み上げてくる。


 「……そっか、そっかよかった。俺以外にも生きている人がいたんだ」

 「ああ、そういうこと……いい、よく聞きなさい確かに私は生きているわ。でも私はあなたの世界の人間ではないの。だから申し訳ないけど……あなたの世界で生きているのはあなただけなの」

 「何言ってるか分かんないけど。とにかく生きている人に出会えただけで俺は、俺は……」

 「と、とりあえず一旦落ち着きなさい。ほら、これで涙を拭うといいわ」


 泣いている俺を慰めるように、彼女はドレスの中からハンカチを取り出し俺に渡すと優しく背中をさすってくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る