Tale<テイル>

麻月 タクト

プロローグ

 朝、目が覚め家族と共に朝食を食べ高校へ行く、学校で授業を受け休み時間になればクラスメートと他愛のない話をし放課後になれば家へと帰宅する。

 家では母の手伝いをしたり宿題をしたりして父が仕事から帰って来れば家族全員で食卓を囲み夕食を食べる、そんなどこにでもありふれた普通な生活を送っているだけで俺の心は満たされていた……幸せだったんだ。


 朝七時、いつも通りの時間に目覚ましが鳴り目を覚ました俺は、ベットから起き上がり身体を伸ばしていた、そんな折窓の外からいつもとは違う騒々しい喧騒が聞こえてくる。

 近くで事件でも起きたか工事でもやっているのだろうと思い自分には関係ないと特に気にせず朝食を食べるべく自室から出て階段を下りリビングへと向かった。


 ドアを開きおはようと声に出すが父さんと母さんから返事は帰ってこず、二人は慌ただしく旅行に行く時のような大きなバッグに荷物を詰めていた。

 俺に気づいた母さんは急かすように家を出る準備をするよう声をかけると、すぐさま自分の準備へと戻っていった。

 訳が分からないが俺も言われるがまま自室へと戻りリュックの中に着替えや大事なものなどの荷物を詰め、パンパンになったリュックを背負い再びリビングへと戻る。


 父さんと母さんはまだ準備が終わっていなかったため、俺はテーブルの上に準備されていた朝食を食べることにした。パンに目玉焼きコーンスープといつもと変わらない朝食を食べながら俺はこのいつもとは違う異常事態にバクバクと心臓が高鳴るのを感じていた。

 ちらりと視線を向ければ父さんと母さんの表情は焦っており、かつて悪さをして怒られた時の比ではないぐらい空気が重く張り詰めていた。


 なぜだか美味しく感じない朝食を食べ終わり、父さんたちの方へ視線を向けると丁度準備も終わっていた。

 俺は父さんに何かあるのか聞いたが家を出れば分かるとしか答えてくれなかった。いつも明るく優しく笑顔が絶えない母さんは顔を合わせてからずっと不安そうに顔をしかめている。


 そんな母さんのことを珍しく思っていると、突如窓から外を見ていた父さんが血相を変え今すぐ外へ出るよう声を張り上げた。俺は父さんに言われるがままリュックを背負い玄関に向かい靴を履き終えドアを開いた。


 外へ出て最初に目にしたのはいつも通りのお向かいさんの家……ではなかった。そこに向かいにあったはずの家は跡形もなく消えており、代わりにあったのは真っ黒な空間だった。

 夢でも見ているのかと思い空を見上げてみれば、剥がれるように青空が消え黒く染まっていっていた……急いで視線を戻し周りを確認するが、家や地面は崩壊するように、逃げ惑う人や空を飛ぶ鳥は沈んでいくように闇は例外なく全てを呑み込んでいた。


 そんな光景に息を飲み動けずにいると、背後から父さんが俺の腕を引き母さんと共に闇が迫っている方向とは逆の方に走り出した。何が起きているのか訳がわからず俺たち家族は迫り来る闇から逃げることになった。

 父さんの後ろを何も考えずただただ必死に走り、目の前しか見えていなかった俺は、足元に転がっていた誰かの靴に足を取られ転倒した。


 後ろからは闇がどんどんと迫ってきており、早く起き上がらなければいけないと分かっているのに焦れば焦るほどうまく足が動かせない。

 闇はすぐそこまで迫り俺は、人生で初めて死を覚悟した……だが、不思議と恐怖はなかった、目の前に両親が見えているからだろうか?。


 そんな俺に気づいた両親は急いで俺の元まで駆け寄り身体を起こしてくれて、非常事態なのにどうしてか嬉しさがこみ上げてくる……けど状況が好転したわけではなく、今も闇は速度を落とすことなく真後ろまで迫っていた。

 この時、初めて死ぬのが怖くなった……でも多分それは自分の命よりも愛する両親が死んでしまうのが怖かったのだと思う。


 無理だと理解しつつも両親の手を引き最後まで諦めず走り出そうとしたが、父さんと母さんは手を振り解くと力一杯に俺のことを突き飛ばした。

 俺はすぐに起き上がり振り返ったがすでに闇は両親の体を呑み込み始めていた。

 両親を助けるために駆け寄ろうとした俺を、両親は涙を流し制止して逃げろと何度も何度もその身が闇に呑み込まれる最後の時まで俺に向かい叫び続けていた。


 両親を呑み込んだ闇は留まることなくさらに勢いを増して俺へと迫っていた。早く逃げなければと思った……どこに? 前からも後ろからも闇は迫っている空なんてすでに真っ黒だ。それに両親のいない世界で生きていく気力なんてない。俺のくだらないミスのせいで父さんも母さんも死んだ──俺が殺したようなもんだ。そんな俺が生きていていいはずがない。

 このまま闇に呑まれ死ねば父さんたちに会えるかな? 会えるよな、そしたらちゃんと謝ろう謝って謝って許してもらおう。

 そして闇は呆然と立ち尽くしていた俺のことも呑み込んだ。


 この日、俺──麻倉悠斗あさくらゆうとの満たされていた人生は大きく崩れ去った。

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ここまで読んでいただきありがとうございます!

新作、ではないのですが二年ほど前に書いていた作品です。


このまま眠らせておくのも勿体ないと思ったので公開しました!

粗が多く少し恥ずかしいですが、よろしくお願いします。

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