第7話

 僕はレイを見た。背を向けてチマチマと豆を摘んでいた。何のことはない隠したいことでもあるのが見えている。

「で、何であんたらは僕たちが強い人だとわかったんだ」

「わかりません。手ぶらで帰るわけにはいかないと話していたら、街のところをコソコソ出てきたあんたらを見つけたんです。お嬢さんは背中に剣を担いでいましたし」

 ほらね。市門から堂々と出てくればよかったんだ。これは半分はアラのせいだ。

「何とかしてもらえるんじゃねえかと話しているうちに捕まえられてしまいました。気がついたら朝でした」

「まあでも僕たちに領主を倒すとかできないよ。どんな領主か知らないけど。いくら強くてもたった二人でどうするんだ」

「二人じゃね。他の村でも同じように探してるだ。それにわしらも戦いますで。村も抵抗できるんだぞと訴えれば、領主様も少しは考えてくれるはずだで」

 ちょっと甘くないか。権力者たるものそんなことで相手の言うことなんて聞かないぞ。聞いてれば権力者になれてないと思うけどな。

「領主とやらは強いのか」

 レイは尋ねた。

「不死身の兵士がいるとかいないとか。数はわかりませんが」

「何とかできるかもしれない」 

 何を聞いていて、何とかできるかもしれないと考えた。僕とレイの耳は違うことを聞いていたのか。

「おまえたちは領主とやらの支配から逃れて、水を自由に使えて畑を耕せればいいんだな」

「早い話はそうです」

「待て」

 僕は話を止めた。彼女は何も理解していない。これはそんな単純な話ではない。水や何かの権利に関わることはすべきではない。レイの考えはこうだ。水の権利を独占する領主が悪い。そもそも堰なんてあるのが悪い。水は上から下へ流れる。

「タダ働きなわけない」レイは交渉し始めた。「いくらだ」

 三人の相談が漏れ聞こえた。目の前でしているのだから、嫌でも聞こえてくる。この二人で領主に勝てるわけがない。いくら何でも小娘と薄汚い野郎だ。剣を持ってはいるものの、どこの馬の骨ともわからんのだからアテにしてはいけないんじゃないかなど。腹立つ奴らだな。

「シン、落ち着け」

「レイに言われたくない」

 領主を怯ませるには、二人ではムリだ。もっといる。後十人くらい腕に覚えのある者がいる。一人頭銀一枚だと、他の村の連中はどれくらい集められているのか。

「後の十人も一緒に探すのか」

「いや。それはコロブツの教会で待ち合わせになっとります」

「この剣でも持っていけば?」

 アラは呪具については、相手を巻き込むようなことは言うべきではないと話していたが、そんな迷信めいたことを信じる気にもなれない。

「わしらではなあ」三人は顔を見合わせた。「剣士じゃねえから、剣をもらっても使いこなせねしなあ」

 僕たちも剣士ではない。

 僕は教会は皆が領主様を追い出すことを知っているのかと尋ねた。

「領主とやらはどこにいる」

「誰も見たことねえだ」

「心許ないな」

 教会で十日ほど後に待ち合わせることにして、銀もそのときに支払われるということだ。

「しかしこんな美しいお嬢さんが剣士だとはな。街は凄いところだ」

 カムは話した。レイは美しいかもしれないが、その美しさでも補いきれないほどのことをしてくれる。

「彼女領主様にお供えしたら、水や畑くらいくれるんじゃないのか」

 僕が捨てるように言うと、レイは見開いた目に一杯の涙を溜めた。

「捨てるの?」

「捨てない捨てない」

 トラウマ級だな。もう少し自己肯定感があってもいいと思うぞ。あれだけ強いし、輝いているし、僕のほうが不釣り合いに思えてくる。

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