第6話
僕とレイは朝食を食べた。
乾燥したパン、汚い皿には煮豆に乾燥肉をほぐしたものが混ぜられていた。三人はテーブルを挟んで何も頼まないので食べにくい。
「何も食べないの」
「わしら銭っこねえで」
「いつから食べてないの」
僕が尋ねていても、レイは遠慮なく食べていた。どうやら気にならないようだ。三日ほど食べてないと答えると、僕は溜息を吐いた。そんなことを言われて、目の前にいられれば食べさせてやるしかないし。
「いいんだか」
「まあ情報料だね」
僕が答えきる前に、三人は一気に食べ始めた。むさぼるとはこのことだ。食べ終わるまで話せないなと思いながら、僕たちも食べた。
ようやく、
「そろそろ話せるかな」
「もう一つもらってええだか」
「まず話しだよ。後で……」
「すみません、もう一つください」
レイが頼んだ。
おまえかいっ!
「呪われた道具はお祓いしてもらわないといけないで」
話が通じそうだ。彼らはコロブツの教会はに聖なる地に関する絵があると話した。
「お祓いについては、今の院長様が詳しいんです。というか、前の人はお祓いはできませんで、本部へ代参してくれてました」
「シン、代参だよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「あ?」と僕。
「今度はわしらの話だな」
急激にテンションが緩んだ。そうだった。今度は彼らの話を聞かなければならないんだった。
「わしはウロム村のカムと言います。コロブツの湖の日が昇る側で百性してますだ。この二人も村の連中です」
レイは新しく来た皿を食べ始めた。まったく興味ないらしい。それは僕も同じだが、人としては聞かないわけにはいかない。
「わしらは強い人を探すために来ました。塔の街に来たら強い人がいると考えたんです。湖の北周りの定期舟でコロブツまで行き、そこから街道沿いに歩いて街まで来ました。塔の街で十日くらいいました。探しても探せるもんじゃねえとわかるまで二日もいりませんでした。でも何も持たずに帰るわけにはいかねと探しました。口入屋なんてところにも聞きましたけんどダメでした。帰るしかないと諦めていたときです」
僕はレイの皿から豆粒を摘んで口に入れた。レイは下唇を噛んで抗議した。背を向けて食べ始めた。
「聞いてくだせえっ」
カムがテーブルを叩いた。一斉に他の客が見た。僕はちゃんと聞いているからと宥めた。気を落ち着けたカムは萎んだかのようになった。
「塔の街でとんでもねえことが起きたんです。何だと思いますか」
「何だろう」
僕が答えると、レイの背中が必死で笑いを堪えていた。これはあれしかない展開だ。しかし皆が皆、白亜の塔に関心を持つわけではない。
「推量というもんもあるで、何となくでも答えてみてください」
「塔のことに関係あるとか」
「わしらの前で白亜の塔が潰れたんです。ちょうどわしらは街を去ろうという日でした。かつて国王様が死んだ人への救済としてお造りになられた塔が潰れたんです。魂の塔とも言われる塔が。聖なる塔が。誰があんなひどいことをしたんだ」
「も、もう少し静かに」
「すんません。わしは怖ろしうなりました。わしらの未来が見透かされているように思えたんです」
「何で?」
「聞いてくれますかっ」
「聞いてるし、聞くから」
僕は慌てて制した。
「で、強い人を探してどうするんですか。まさか盗賊から村を守ってくれと頼むとか。これから七人くらい集めるのかな。どうぞ続きを」
「わしらは領主様を倒してもらいたいんです」
「は?」
さすがにレイも相手を見た。どういうことだ。村々を治めている領主を倒してくれとは反逆者なのか。
「昔からわしらの村は領主様の水を管理することで、土地を貸してもらうようになってました。でも水が盗まれたんです。何者かが打ち捨てられた村の堰を壊したんです」
カムが声を潜めた。
「ここに流れとる水は、元々はわしらが扱うとった水です。今ここで麦が育つのはわしらの水があるからです。ここの収獲の少しは寄越せと言いたいくらいです。何とかしてくれるように訴えたら、納める年貢を引き上げる約束をせいと。これ以上年貢は渡せねえし、黙っていれば飢え死にするだけだし。おらたちは出稼ぎにでも行くがなあ。そんな土地に子どもたちの未来はないんです」
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