俺が転生したかったのは俺tueeeeが出来るRPGゲー厶世界であって理不尽恋愛ゲー厶世界じゃない。
奴らはヒロインだというのに全然ヒロインっぽくないのに、どうしてお前はヒロインじゃないのに一番ヒロインをしているのか。
奴らはヒロインだというのに全然ヒロインっぽくないのに、どうしてお前はヒロインじゃないのに一番ヒロインをしているのか。
エリスは自分の部屋に帰っていた。
「…………」
彼女が去った後の居間は夜の暗さと静寂を取り戻し、その中で、小太郎は布団に入ることもなく、一人窓の外を見つめていた。
彼女は部屋に戻る時、話をこう締めていた。
私達の関係は仮初でしかない。しかしそれこそが、秋良様が望まれていること。
私は秋良様の望むままに婚約者を演じる。だから、小太郎も協力してくれ。
仮初……演じる……それらの言葉は、小太郎にとって決して小さくないものであった。だがそれ以上に、彼の脳裏に響くのは、その前に出た彼女の言葉。
私は、お前が、憎い――。
憎いんだよ――。
それは山彦のように、強いエコーがかかり、何度も何度も小太郎の心を深く蝕んでいく。
これまで鋼の精神と空の計画性で突き進んできた小太郎。
しかしそんな彼ですらも、表情を闇夜に沈め、眉間に皺を刻み、何度も瞳を閉じては開いていた。
「……なあ、チノブ」
……ん。どうしたんだい。
「俺さ、改めて思ったよ」
思った……何をだい?
……白々しいと、自分でも思う。
このタイミングで、この空気で、表情で、小太郎の言いたいことなんて、一つしかないだろう。
いつしか必ず、人は『諦め』と直面する。
恋を諦め、夢を諦め、勉学を諦め、金銭を諦め、人との繋がりを諦め、歳を諦め、そしてやがて、生きることを諦める。
諦めのない人生なんてものは存在しない。しかしながら、諦めた数多くのものとどう向き合うかが、その後の人生の色を変えていくのだろう。
小太郎は、きっと諦める。
そして、その現実に目を向ける。目の当たりにする。見せつけられる。そこで彼は、いったいどのような景色を見るのだろうか。
過去への執着か、現実への絶望か、はたまた、未来への妄執か。
僕はただの観測者。地の文。世界の進行役。彼の行動や心情を解説しようとも、その心の内までは操作できない。
だからこそ、僕は聞きたい。
並ならぬ転生者である彼が、この世界の理の外から来た彼が、今ある紛れもない現実にどのように諦め、見切りを付けるのか。それとも、引き摺られるのか。
それは、とても興味のあることだった。
時計の秒針だけが音を鳴らす中、小太郎は、徐に口を開いたのだった。
「……やっぱエリスって、一番ヒロインっぽくね?」
ごめん小太郎、ちょっと何言ってんのかわかんない。
「いやだから、エリスって一番ヒロインっぽいよなって話」
いやいや、小太郎。
今の僕の地の文聞いてたでしょ?
小太郎、めっちゃ落ち込んでるんだよね? 好きな人に可能性を否定されたどころか、はっきりと憎いとまで言われたんだよね? 普通どん底だよね?
「そりゃまあ結構ショックだったけどさ、そもそもの話、チノブからだってあいつはヒロインじゃないから攻略対象外って言われてたわけだし、それを今更本人から言われただけの話でしかないからな」
そ、そういうものなの?
意外とサバサバしてるんだね、小太郎。
しかしどうするよ、僕の解説。
思いっきりなんか意味深な内容にしたんだけど。小太郎が見事に台無しにしてるんだけど。
このやるせなさ感はどうしてくれるんだよ。
「んなもん俺が知るかよ。しかしよ、チノブ。やっぱり納得できん。なんでよりのもよってヒロインじゃないエリスが一番ヒロインしてるんだよ」
言うほどしてる?
むしろ可能性を全否定したわけだから、一番程遠いんじゃないの?
「お前は何もわかってない。考えてもみろ。超名門と見せかけて、裏ではめちゃくちゃ苦労しててだな。そこを救ってくれた奴に恩を感じて、自分を押し殺し仕えてるんだよ。そんで、主人公である俺を恨んでいると来たもんだ。めっちゃヒロインじゃん。思いっきり王道ヒロインじゃん」
ごめん、やっぱ何言ってんのかわかんない。
今のどこにヒロイン要素あったっけ?
「全部だよ全部。俺の話聞いてた?」
聞いてるけどわからないというか、聞いてるからこそわからないというか。
「まったくもって理不尽だよな。藤咲といい秋良といい、奴らはヒロインだというのに全然ヒロインっぽくないのに、どうしてヒロインじゃないのエリスが一番ヒロインをしているんだよ。どんな嫌がらせだよ」
嫌がらせというか、そういうのでもない気がするんだけど。
結局のところ、小太郎はこれからどうするつもり?
「どうするもこうするもないだろ。さすがにこのゲームのストーリーは全く読めん。読めん限り、先のことを心配しても仕方ないだろうよ。あとは野となれ山となれの精神で、ケースバイケースで対応していく他あるまい」
ストーリーはそれでもいいけども……エリスのことだよ。エリス・クローディア・リリーホワイトのこと。
「エリス? ああ、そうだな。とりあえず疑似婚約者って関係は続けるわけだし、そのうちなんとかなるだろうよ」
なんとかって……どうなるんだよ。
「俺がなんとなく、納得できる落としどころってやつだよ。諦めるとかそんなんじゃなくて、俺が……この世界が、前に進めるような結末ってやつだよ」
……小太郎って変なところで逞しいよね。ほんと。
今日は良い意味で言ってるからね。皮肉とかそんなの抜きで、心底思うよ。
「普段は皮肉まみれってことじゃねえかよ」
小太郎はケラケラと笑っていた。
僕は、改めて思う。
山田小太郎という男は、やはり異常だ。
だからこそ、観測のしがいがある。
彼を取り巻く環境は、もはや正常の路線からはみ出している。これからどうなるのか、そんなもの、きっと神様にもわからない。
そんな彼の近くで、僕は語っていくだろう。
この世界の流れを、そして、終焉を。
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