攻略サイトの閲覧を否定するものではありません





 判明した三鷹秋良のポンコツっぷり。

 しかしそのおかげで、小太郎は何とか帰宅することができたわけで、翌日の学校の昼休み、教室にて、改めて今後の方針を検討するのだった。


「しかし、まさか秋良があそこまでポンコツとは思わなんだ」


 普通ああいうフィクサーは超有能なんだけどね。

 もしかしたら、未来視眼ヴィジョン・アイが使えなくなったのが原因かもしれないね。


「未来がわからなくなったから?」


 そうそう。

 これまでは見えた未来に合わせて色々準備すれば良かっただろうからね。昨日の件でも、小太郎がいつ帰って来るのかわかれば対応は簡単だろうし。

 小さい頃から未来を見続けた彼女からすれば、未来がどうなるのかわからないってのは、想像も出来ないんだと思うよ。

 

「最初っから攻略サイトをガン見しながらゲームしてると、攻略サイトがなくなったら全然進まなくなるみたいな?」


 その例えだと色々語弊が生まれそうだけど、まあそんなところ。


「しかしそうなると、改めて攻略が難しくなってくるな。あのポンコツっぷりを気付かないフリしながら生活せないかんわけだし。……ってことで、協力してくれ! 藤咲!」


「急に話を振るのはやめてくれない? 全然話が見えないんだけど」


 鏡花は、物調面で小太郎を見ていた。


「いや、実はな……」


 そして小太郎は、秋良とエリスの本当の関係と今小太郎が置かれている状況を事細かに説明する。

 ……って、説明しちゃっていいの?

 バレたとは言え、このゲームにおける最大の裏設定というか秘密だったりしたわけだけども。


「仕方ないだろ。秋良についてはもはや俺一人だとどうにもならん。家に帰るだけであれだけ大変なんだぞ? せめてもう一人、協力者的な実動員が欲しい」


 小太郎が一通りの説明を終えた時、鏡花は、やはり頭を抱えるのだった。


「……つまり、こういうこと? 秋良の正体はエリスをも上回る超々々お金持ちの超々々お嬢様であり、これまでは未来視眼ヴィジョン・アイという異能の力で未来を予知できたから裏で暗躍する黒幕的なキャラだったけど、山田のせいで未来が視えなくなって、一気にポンコツお嬢様キャラになったから助けて欲しいってこと?」


 おお! たった一度の小太郎のアホみたいな説明でここまで理解してくれるとは! さすが鏡花!


「さすがだな藤咲! マジでそのまんまの状況なんだよ!」


「あんたね……。話を盛るにしても限度ってものがあるでしょ。異能とか黒幕とか、さすがの私でもついていけないわよ」


「まぁ未来視眼についてはチノブの話でしかないから俺にも真偽不明なんだけどな。ただ、少なくともポンコツっぷりはガチだ。それに気付かないようにしないといけない俺の苦労たるや」


「ポンコツポンコツって連呼してるけど、そうは言っても未来が見えなくなっただけでしょ? その程度で黒幕だった奴がそこまでのポンコツになるってのは、ちょっと信じられないわね」


 と、その時である。

 突然廊下から女子たちの黄色い歓声が聞こえ始め、教室のドアが開かれた。

 そして現れたのは、秋良だったのである。


「あ、小太郎。いてくれて良かった」


 秋良は小太郎の元へと駆け寄り、やや恥ずかしそうに頬をかくのだった。


「どうしたんだよ」


「あ、あの、ちょっとお願いがあるんですが……数学の教科書、貸してくれませんか?」


「別にいいけど、忘れたのか?」


「ええ、まぁ。昨日の夜、ちゃんと準備はしていたんですが……」


「ですが?」


「その……ついうっかり、バッグごと家に忘れちゃいまして……」


「うっかりのレベルが高過ぎやしないか?」


「教室に着いた時には気づくでしょ、普通」


 すると秋良は「それが……」と口を開く。


「学校には、今着いたんです。通学でバスに乗ったのですが……なぜか、そのバスが学校とは反対方向に行っちゃいまして……」


「山田、私が悪かったわ。この子はポンコツよ。純然たるポンコツよ。間違いないわ」


「わかってくれたか。しかもこれが常時発動型なんだよ。永久に外れない呪いの装備なんだよ」


 よもや自分のことを言ってるとは思いもしない秋良は、小太郎から教科書を借りると「ありがとう小太郎!」と爽やかな言葉を残し、周囲の女子の敵意を小太郎に向け、颯爽と戻って行った。


「それにしても、これは本当に厄介ね。ここまでのポンコツ具合なのに、それを見て見ぬふりしないといけないのよね?」


「らしい。実は昨日の夜に思い切って本人に暴露したんだけど、即座にゲームオーバーになりやがったんだよ。理不尽過ぎるだろ?」


「その理不尽さは今に始まったことではないけれど、少なくとも、今後のゲーム攻略はかなり慎重にならざるを得ないわね。ところで、エリスはどうしたの? あんたの話だと、エリスこそ真の執事なんでしょ? これまであの秋良の世話をしていたのに、突然こんなミスをするなんてどうしたのよ」


 ああ、エリスなら生徒会だよ。

 スカウトされて、副会長になったんだ。


「エリスは生徒会の副会長になったらしいよ。チノブが言ってる」


「なるほど。確か、今日は朝から委員会があってたわね。それで秋良が一人で行動せざるを得なくなったと……。でもエリスが生徒会に入ったとなれば、今後秋良は一人で行動することも多くなって――」


 そして鏡花は、気付いた気がした。


「……もしかしたら、秋良の攻略方法ってそれなのかも」


「それ?」


「だから、秋良に対する今後の対応よ。能力が使えなくなったうえに、サポートに徹していたエリスもいないでしょ? 秋良は、初めて自分一人の力、能力も環境も助けてくれない中で生活する苦労を知るのよ。そこで山田が手助けをすることで、攻略の糸口になるのかもしれないわね」


「な、なるほど……。で? 何をすれば?」


「簡単よ。敢えて彼女のサポートをするのよ。山田が」


「は? でも、ポンコツなのを暴露したらゲームオーバーに……」


「何もポンコツなのを思い知らせる必要はないはずよ。暴露とサポートは別ものでしょ? あとは山田が広い心を持って、彼女の全てをフォローすれば……」


「秋良攻略に繋がるってことか」


 鏡花はしかと頷く。

 いやいや、やっぱり鏡花様々だよね。もう彼女がいないと話が進まないんじゃないかって思うくらいだよ。小太郎も小太郎でポンコツが過ぎるからね。


「ふほほほ! 実際そうだから否定できないぜ! 藤咲がいないと、俺はもうダメなのかもしれん!」


「何バカなこと言ってるのよ。気持ち悪い。刺すわよ」


「だから、気持ち悪いはやめろよ……」


 小太郎の心を抉りつつ、二人の作戦会議は終了する。

 しかし二人は知らなかった。

 この作戦が、この後、実にややこしい事態に発展するということを……。 









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