親友キャラという無条件に存在する神
藤咲鏡花からすっかり敵対勢力として認識されてしまった小太郎は、授業中も、休み時間も、移動中も、猛獣の如き形相の鏡花から、延々と威嚇され続けていた。
疲弊する小太郎。一向に怒りの治まらない鏡花。
もはや二人の間にはマリアナ海溝よりも深い溝が生まれていた。
だがしかし、そんな状況となっているのを知るのは小太郎と鏡花だけ。
その二人の構図を見た第三者がどう思うかは、第三者次第なのである。
「おいおい小太郎! これはどういうことだよ!」
「え?」
「藤咲のことだよ! お前何かあったのかよ!」
突然話しかけてきたクラスの男子に、小太郎はフリーズする。
「あ、あの……えと……」
「なぁにボーっとしてるんだよ小太郎! いいから答えろよ!」
小太郎は反応に困り、小声で聞いてきた。
「こいつ、誰?」
彼は友館英司。
いわゆる主人公の親友キャラだね。
「親友の友館英司……友達Aってか? どんなネーミングだよ開発者」
ちなみに彼とは小学校の頃から腐れ縁で、お互い名前で呼び合ってるから気を付けてね。休みとかでもちょくちょく遊びに行ってることになってるから、話合わせて。
「マジで親友なんだな……そうか、親友か……」
感慨深く呟いた小太郎は、突如英司の両肩を掴む。
「……ありがとう、親友の英司。お前がいてくれたことが、この世界に来て一番嬉しいよ、マジで」
「え? え? なんだよ突然」
いやホントにどうしたの小太郎。
「チノブ、お前は何もわかってねえ! 親友だぞ親友! 友達を超えた友達、人生で一人は絶対に欲しい存在、それが親友だ! 彼女作るよりも親友一人作る方が難しいという声すらある、絶対的存在なんだぞ! そんなものが無条件にいてくれるなんて奇跡だよ! こいつ神だよ神!」
あー、そっか。
小太郎って前世は引きこもりで友達が一人もいなかったんだよね。
そりゃ嬉しいよね、うん、嬉しいはずだよ。
「ソフトに哀れんでんじゃねえ!」
「おーい小太郎。さっきからどうしたんだ? 様子が変だぞ?」
ほらほら、親友の英司が心配してるよ?
「ご、ごめん……え、えい……えい、じ……」
「だから、さっきからなんなんだよ……」
ごもごも話さない。
英司も心配を通り越して不気味になってるよ。
「し、仕方ねぇだろ! 友達もろくにいなかったんだからよ!」
ろくにいなかったんじゃなくて、全くいなかったの間違いでしょ。
しかし英司は、実に心配そうに小太郎の顔を覗きこむ。
「なんか調子悪そうだけど、本当に大丈夫か?」
「おいおいおいおい。俺の様子見ても引くどころか心配してくれてるよ。どんな人生歩んだらこんな聖人になるんだよ」
僕としては逆にどんな人生歩んだら友達一人でそこまで感動するようになるのかが気になるけども。
「小太郎、そろそろいいか?」
閑話休題。
「それで? なんだっけ?」
「だから! 藤咲のことだよ! あの誰にも関心を示さない『富士の鏡割り』が他人をずっと見てるとか緊急事態だぞ! 俺どころか学校中がビビってるくらい!」
「俺的にはそのあだ名が平然と使われてることにビビるよ」
きっと使いたくて開発者が無理やりねじ込んだんでしょ。
「その相手がどうしてお前なんだよ小太郎! あんな熱烈な視線を浴び続けるなんて……なんて羨ましい!」
「HAHAHA! そいつはいったい何のジョークだよ! あれが熱烈なら南極も常夏に感じるだろうよ!」
いやでも小太郎、これはチャンスかもしれない。
「どこがチャンスなんだよ」
英司の話を聞く限り、やっぱり鏡花は学校で孤立してたみたいだね。しかも他人に対して徹底して無関心だったことも窺える。
そこに小太郎の登場だよ。
確かに今は小太郎に対して怒りまくってるわけだけど、怒りも感情の一つだからさ。少なくとも、彼女は小太郎を一人の人間として意識してるってわけだよ。
好意の反対は無関心って言うでしょ?
小太郎はその無関心を飛び越えて敵意を持たれている。敵意と好意は表裏一体なわけだから、やっぱり彼女のファーストタッチ攻略は昨日のあれで正解だったんだよ。
あとは彼女の敵意を何とか好意に変えることができれば、逆転サヨナラ満塁ホームランなんだよ。
「敵意を、好意にって……」
チラリと、小太郎は鏡花を見る。
「…………チッ」
目が合った瞬間、彼女はお駄賃代わりと言わんばかりに舌打ちを一つ。
「……どうやって?」
気合。
「漢字2文字で終わらせるなよ」
でも大チャンスなのは間違いないよ。
ここまで彼女が他人を意識することは相当珍しいみたいだし、あとはキッカケ一つだと思うんだよね。
「そうか。よーし、わかった! 英司! 今日ラーメン食べて帰ろうぜ!」
「お? ラーメンいいな! ちょうど駅前に新しい店できたらしいし、いっちょ突撃するか!」
二人は意気揚々とラーメン店の調査を始める。
……って違う違う違う。
小太郎、それは違う。誰がラーメン食べに行けって言ったわけよ。
「え? でも、嫌ってる相手をわざわざ何とかしようとする必要もなくね? 労力の無駄だし、嫌ってるんならお好きにどうぞ。それより俺は初めての親友ってやつと交流を深めたい」
いやいや、これ恋愛ゲームだから。恋愛ゲームでヒロイン放置するとか前代未聞だから。
試合が始まると同時に棄権しちゃだめでしょ。
「お前こそ何言ってやがる。恋愛ゲームでどのヒロインを攻略するかなんてプレイヤー次第だろ。俺はあいつを攻略しない。あんだけ敵意剥き出しのヒロインなんてまっぴら御免ってやつだ」
その敵意が剥き出しになった唯一にして最大の原因は小太郎にあるってのをまずはしっかり自覚しようか。
そして睨みまくる鏡花をホントに放置し、小太郎は、放課後に英司とラーメン屋へと向かった。
ゲームオーバーにならないところを見ると、過度に間違ってるわけではないようだ。
はたして、これからどうなるのやら。
それは地の文担当たる僕には、わかりようもないのであった。
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