【GAME OVER】は突然に





 地の文担当の僕は小太郎にチノブだとか呼ばれるようになりましたとさ。

 はいはい。


「いきなりの呼び捨て。やさぐれすぎだろうに」


 だって地の文なのにキャラ扱いってどうよ。

 僕の存在意義って何なの、いったい。


「そりゃ的確な状況説明じゃないの?」


 それ地の文じゃなくてただの解説じゃん。

 僕これでも地の文士官学校を割といい成績で卒業したんだけど、そんな僕がなんでこんな扱いされないといけないわけよ。


「地の文に士官学校ってあるんだ……」


 そりゃあるよ。

 自分たちの常識でしか考えようとしないのは人の愚かなところだよ。


「お前はいったいどの立ち位置だっつーの」


 話が進まないし、とりあえず続けるよ。


「ちょい待ち。チノブ、ちょっと聞きたいんだけどさ」


 なにさ。


「お前ってゲームの進行役っていうか司会者的なところあるじゃん? だったら、このゲームのこと知り尽くしてるわけだろ? とっととクリアできるように最短最良ルートに案内してくれよ」


 生憎だけど、僕は地の文を司ってるだけだから。

 攻略関係はシステム担当かシナリオ担当に聞いてよ。


「それ、どこにいんの?」


 さあ。知らない。


「えええ……じゃあお前、この先どうなるかもわからないわけ? 役に立たない奴」


 聞き捨てならないね。

 小太郎ってさ、僕のこと舐めてない? ねえ、舐めてるよね?


「ええと、チノブ?」


 わかりました。わかりましたよ。

 だったら僕にも考えがあります。ボイコットさせてもらいます。いや、この場合はストライキか……。

 とにかく、僕はもう知りませんから。

 あとは小太郎がやってください。


「え? ちょ、ちょっとチノブ」


 …………。


「おーい、チノブ。スト起こすとしても、まずはこの真っ暗な世界を何とかしてくれないか? 何もできないって」


 …………。


「俺どうすりゃいいんだよ。おい。おいったら」


 …………。


「……悪かった。俺が悪かった。だからいい加減機嫌なおして。頼みます」


 ……これでわかったでしょ?

 僕が的確に状況を説明することで、ようやくそこに景色が確定されるわけだよ。色々できるんだよ? 僕が「雨が降って来た」って言ったら本当に雨降ったりするし。

 

「無駄にすげえな。むしろそこまで凄いのに、なんでまたシナリオは一切知らないんだよ」


 そこは業務分担だから。

 とにかく、いい加減物語を始めるから。

 準備はいい?


「何を準備するのかは知らないけど、頼む」


 じゃあ行くよ。

 ……ここは小太郎の自宅。

 都内の住宅街に佇む、二階建ての一般的な家である。


「おお! 真っ暗な空間が家の中に変わった! すげえ!」


 だから言ったでしょ?

 僕は、地の文だからね。


「意外と広いじゃん。これが俺の家かぁ……へえ……。っていうか、家計が苦しいのに都内の住宅地に一軒家持ってるってどういうことだよ」


 そこはご愛敬。

 

「世帯主は誰? 俺? 税金は? ローンは?」


 そこもご愛敬。


「っていうか小学生からここで一人暮らしってことだよな? それって法律的には大丈夫なのか?」


 やっぱりご愛敬。


「ご愛敬だらけじゃねえか。どんだけ愛嬌を振りまいてるんだよ。ガバガバにも程がある」


 小太郎は変なところで頭が固いよね。

 そんなの全部ご都合主義でいいじゃん。

 細かいこと言うなら、小太郎が好きなRPGゲームの方がよっぽどガバガバ設定だと思うけど?


「そりゃまあ、そうなんだけどさ」

 

 あるがまま受け入れなよ。

 じゃないとクリアなんて不可能だよ。


「わかったよ。で? とりあえず俺は何すればいいんだ?」


 さぁ……。


「さぁって、わからないのか?」


 言ったよね? 

 僕は状況を説明するだけであって、小太郎の行動を決めるのはプレイヤーなんだよ。この場合、小太郎がプレイヤーを兼ねてるんだけどさ。


「んー、じゃあちょっと外へ出てみようかな。ゲームの中とは言っても、こうして見ると現実と変わらんみたいだし」


 そうだね。とりあえず行動してみるのはいいことだと思うよ。

 そして小太郎は外へと出る。

 朝の心地よい日差しの中、小太郎は街を巡っていた。

 そこはその世界にとってはごく普通のありふれた毎日。しかしゲーム世界に転生した小太郎にとっては、どこか新鮮で、目に入る景色全てが輝いて見えていた。


「いやホント、なんかすげえよ。街並みとか風の匂い、歩く感覚までマジで現実と同じじゃんか。これ本当にゲームの中?」


 そうだけど、ちょっと複雑かな。

 小太郎にとってはゲームの中でも、僕にとって、とりわけこの世界の住民にとっては当たり前の世界だからね。


「立場が変わればってやつか。でも、なんか俺楽しみになってきたよ」


 そう言ってくれると嬉しいよ。

 じゃあこれからどうする?


「このままテキトーに街をぶらついてみる。何かイベントがあるかもしれないし」


 そうか、わかった。

 こうして小太郎は街を意味もなく歩いて回る。やがて飽きてきた小太郎は、家へと帰った。そしてゲームの中での生活を受け入れ、前の世界と同じように引きこもって過ごし、侘しい人生を終えたのであった。


 【GAME OVER】



「待て待て待て! なんかいきなりゲームオーバーになったんだけど!」


 いや本当に起きたね、イベント。


「こんなイベントがあってたまるかよ! まーた暗黒世界に逆戻りだし! これはどういうことだよ!」


 僕も勝手に口が開いた感じなんだよね。

 ……あ、ちょっと待って。コンティニューみたい。


「コンティニュー?」


 うん、なんかピーンと来た。

 ……ここは小太郎の自宅。

 都内の住宅街に佇む、二階建ての一般的な家である。


「うお! 家の中に戻ってる! もしかして、途中からやり直しってこと?」


 そういうことみたい。


「なるほどな。正しい選択をしないとゲームオーバーになって、ちょっと戻ってやり直しになるわけか。それにしても基準が厳し過ぎるだろうに。外散歩しただけでゲームオーバーとか、俺を引きこもりに戻すつもりかよ」


 じゃあどうする?


「外に出てゲームオーバーなら、家でじっとする」


 なるほど。

 ……そして小太郎は家に引きこもり、一切外に出なくなった。

 しばらくすると食料が尽き、餓死したのであった。


 【GAME OVER】



「おいおいおいおい! 完全なバッドエンドじゃねえか! だいたい誰が餓死するまで引きこもるんだよ! バカかよこのゲーム!」


 バカはお前なのであった。


 【GAME OVER】



「制裁ゲームオーバーはやめろ! 雑過ぎる!」


 雑なのであった。


 【GAME OVER】



「やりたい放題かよ! ほんとクソゲーだなこれ!」


 その後小太郎は、飽きもせず延々とゲームオーバーを繰り返すのであった。


 【GAME OVER】





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